ここではその組織をA会とする。福岡を拠点とするA会は、六代目山口組系有力団体を上部組織としていたのだが、約1年前に離脱している。そしてA会の後を追うように、その六代目山口組系有力団体からある大物幹部が足を洗っている。この幹部が、元人気アイドルで現在は女優業をするBの実弟の親方だったことは、福岡であまりに有名な話だという。
A会と元幹部が六代目山口組系有力団体から離れたちょうどその頃、同団体系列組織が他団体とトラブルになっていたことが相次ぐ離脱劇の原因ではないかと囁かれたことがあった。しかし、関係者らの話を総合すると、実際の理由は組織内部の事情によるものだったといわれている。
そうした複雑さが相まみえるなか、7月27日の深夜、博多区の一角で銃声が鳴り響いた。この撃鉄が落とされた地域こそが、A会の縄張りだったのだ。
「博多の利権はでかい。A会が持つ縄張りも利権を抱える地域のひとつ。A会が六代目山口組傘下から離脱した直後は、その縄張りをめぐって一時緊張状態になったこともあったが、それでもA会はそこを死守しながら、ほかの勢力と均衡を保ってきた。しかし、ここに来てA会の縄張りに他の勢力が進出したきた」(地元関係者)
その勢力というのが先頃、任俠団体山口組に電撃的な加入を表明してみせた、福岡市に本部を置く二代目植木会だという。地元捜査関係者はこう語る。
「A会と植木会は、どうもキャッチをめぐってトラブルとなっていたようだ。今回狙われたのは、植木会の若頭という情報がある。ただ、別の独立団体系列組織も、そのあたりにキャッチの縄張りがあった。植木会はどちらとも向かい合う格好になっていたのではないか」
捜査関係者は、博多の一角にキャッチの縄張りを持つA会と独立団体系列組織、そこに介入してきた植木会、この3者の中に今回の発砲事件に関与した当事者がいるとみているようだ。事件現場には弾痕があり、発砲直後に現場から数人の男が逃げていく様子が目撃されている。
「植木会の若頭といえば、武闘派、植木亨会長の実子分で、会長への忠義心は強い」(植木会若頭を知る人物)とのことで、もし本当に若頭が狙われていたとしたら、植木会もこのままですませないだろうという向きもある。
そして、発砲事件があった翌日には、二代目植木会サイドと、くだんの独立団体の間で話し合いが持たれたと話す関係者もいる。
「両組織の話し合いは無事に終わったようだ。ただ、あくまで今回の発砲事件とは別のキャッチにかかわるトラブルだったといわれている」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)
発砲事件については、当局サイドも急ピッチで裏取りを進めているとみられるが、飛び交っている組織や人物名が、すべて武闘派といわれるだけに予断を許さない。市民を巻き込むような2次被害が生まれないことを祈りたい。
(文=沖田臥竜/作家)