恒例の受験シーズンに入ったが、2021年は異例かつ異様な年として、教育史に残ることだろう。何しろ天王山にあたる大学入学共通テスト(前年までは大学入試センター試験)が3回も実施され、横浜国立大学のように、二次試験にあたる個別学力検査の実施を断念した大学さえ出ている。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない現況では、横国大に倣う大学が出てくるのではないか。
過去に誰も経験したことのない、緊急事態の下での入試だけに、見通しを立てるのはきわめて難しい。
「情報を収集するのに精一杯で、予測をするどころではない」(教育関係者)
ただひとつ言えそうなのは、想定外の変更によって、合格太鼓判組が苦杯を喫し、ボーダーライン組が望外の成果をあげるような、波乱が起こりやすいことだろうか。もとより最後はメンタルが決め手になるのが、あらゆる試験の要諦ではある。
今年の入試で特に注視すべきなのは、看護系大学・学部の動向ではないか。就職に有利な資格を取得できることもあり、看護系の大学・学部は、少子化進行の下でも安定した人気を集めてきた。看護系の学部新設によって、受験生を集めるのに四苦八苦していた大学が、息を吹き返した例もある。しかしコロナ以降はどうであろうか。日々、心身の危機に直面する職業であることや、それに見合わない収入や待遇が、改めて浮き彫りにされている。しかも欧州での変異種の発生が示すように、このまま終わるとは限らない。二の足を踏み、結果として敬遠する受験生が、相当な数出る可能性は否定できない。
忘れてはいけないのは、大学の危機が依然として続いていることだろう。20年5月に巻き起こった学校の9月入学制への移行騒動が、大学を含めた学校法人の際どい運営実態を明らかにした。当初賛意を示していた萩生田光一文部科学大臣、小池百合子東京都知事、吉村洋文大阪府知事らが、一斉に腰砕けになったきっかけは、私学のトップ校を率いる田中愛治早稲田大学総長が、日本経済新聞(同年5月11日朝刊・教育面)に寄稿した慎重論であろう。文中で、田中総長は拙速な導入の問題点を、さまざまな角度からあげているが、推進派に特に衝撃を与えたのは、以下に引用する部分と思われる。
「(教育システム全体が9月入学に移行すると仮定すれば)21年度の春学期の授業料は納入されない。その半年分の授業料が納入されなければ、私立の小中高大とも2割から4割は倒産を余儀なくされよう」
新入生の納入金を運転資金にして、どうにか体面を保っている学校法人はかなりの数、存在することになる。
参考までに直近の私立大学の総定員充足率を試算して、ワースト20校を作成してみた。学生数及び総定員の数値は概ね20年5月時点であり、新型コロナウイルスの影響を受ける以前のものである。
また東京都区内の有力大学の定員厳格化、現状維持的な補助金交付と、非有力大学への支援も実施されていた。いわば平時であり、現在に比べれば、恵まれた状況といえるだろう。それでもなお大幅な定員割れ(総定員充足率8割未満)に陥っている私立大学が、三十余校もある。
総定員充足率ワースト20校
・高岡法科大学46.67%
・甲子園大学47.78%
・愛国学園大学51.25%
・松蔭大学51.34%
・稚内北星学園大学55.50%
・愛知学泉大学56.72%
・岡山学院大学61.25%
・郡山女子大学63.75%
・聖徳大学65.59%
・九州保健福祉大学66.35%
・大阪河崎リハビリテーション大学67.50%
・千葉科学大学69.05%
・岐阜女子大学69.37%
・宇部フロンティア大学69.55%
・東海学院大学70.09%
・姫路獨協大学70.11%
・中国学園大学70.25%
・ノースアジア大学70.71%
・神戸医療福祉大学70.81%
・新潟経営大学70.83%
※国公私立の大学・短期大学900校以上が参加する教育情報を公表するウェブサイト「大学ポートレート」の数値を利用。運営母体が変わった大学や学部学科の構成が大きく変化した大学は除外した。
(文=島野清志/評論家)