新型コロナウイルス感染症に関して、東京都の小池百合子知事ら東京、千葉、神奈川、埼玉1都3県の知事が政府に緊急事態宣言の発出を要請した。菅義偉首相は4日、首相官邸での記者会見で宣言発出の是非を検討することを表明した。
政府与党内には、現行の緊急事態宣言に国民の移動の自由を制限する根拠がないことや経済活動への打撃などを懸念し、「まず宣言の根拠法の新型インフルエンザ対策特別措置法(新型コロナ特措法)を改正するべき」との意見が強い。特措法改正案は13日開会の国会で審議入りになる予定だが、「それでは間に合わない」「いったいどうすればいいのか」と焦りをつのらせている業界がある。入学試験を間近に控えた大学だ。
萩生田光一文部科学大臣は先月18日、今月下旬に実施予定の大学入学共通テストに関して「受験生の皆さんの努力が無駄にならないよう、予定通り実施したい」と表明していた。共通テストとほぼ同時期から本格化する各大学の個別入試に関しても「予定通り実施」という方針で、大学側に感染予防対策の徹底と、「密」を避けて試験をすることを促していた。一方、対策を丸投げされた形となる試験会場の各大学関係者は頭を抱えている。
「アウト」となる受験生は試験監督の裁量次第?
首都圏の国公立大学関係者は次のように話す。
「簡単に言ってくれるなと怒りがこみあげてきます。つまり試験会場で何か起きたとしても、文科省は現場対応するわけではなく他人事ということです」
同大学では目前に迫った大学入学共通テストの準備に追われている。文科省や大学入試センターの感染防止ガイドラインに沿って、受験者の体温測定や間隔を例年より広くとるための座席配置などに関して検討を重ねているという。
「ところがこのガイドラインがガバガバです。問題は線引きを誰が、どのようにするのかということです。例えば、受付時に検温した際に、現行のガイドラインだと37.5度ならアウトです。では37.4度だった学生はどうすればいいのでしょう。会場に入れるのか入れないのか。受験中に咳を始めた受験生がいたとして、どのような状態なら試験を中断させるのか綿密な指針はありません。咳払いをしたら、アウトなのか。咳こむまでいいのか。このままでは、各会場の試験監督の裁量次第で変わってしまいます」(前出公立大学関係者)
このままでは受験生は無理をしてでも会場に来る
また、東京都内の大手私立大職員は次のように怒る。
「例えば(コロナ対策を)厳密にやりすぎて、感染が疑わしい受験生をすべて会場から排除すれば、彼ら彼女らの貴重な受験の機会を奪います。一方で、適当にやって、会場でクラスターが発生したらどうなるでしょう。その場にいた学生全員の受験日程に大きな狂いが生じます。感染して自宅待機となり、志望校が受験できなかったという事態が生じます。
この状況下で予定通りに実施した結果、受験生間の感染拡大はもちろん、それを介した家族へも飛び火する可能性があります。そうなった時、いったい誰が責任をとるのでしょうか。受験生の自己責任で片付けられる話ではないのです。
良い意味でも悪い意味でも大学受験は人生の大きな転機になりえます。政府は受験生に『追試もあるから無理するな』と言っているようですが、現行の日本の大学入試は1~3月までの限られた期間しかありません。これから新型コロナに罹患したという認定を受ければ、有限の期間の中で貴重な時間と機会が奪われるのですから、受験生は体調が悪くても無理をして受験すると思いますよ。
いっそのこと共通テストを含め、『受験シーズン』そのものを数カ月延期したり、今年は『通年受験』を可能にしたりするなど、大ナタを振るった対策が必要だと思います。事務方としては業務が爆発的に増えますが、クラスターが発生したり、コロナを理由に受験生を試験会場から排除したりすることに比べれば、よほどフェアなはずです」
大学受験で人生が決まるわけではないが、高校生や浪人生にとって大きな転機であることに変わりはない。受験生が心置きなく大学入試にチャレンジできる環境づくりが求められている。
(文=編集部)