前回の記事でも触れたが、大学入試における新・総合型選抜と新・学校推薦型選抜の日程変更の影響は、国公立大より私立大の方がはるかに大きい。私立大は国公立大と同じく、総合型選抜は出願開始が今までの8月から9月15日以降に、合格発表が11月以降となる。学校推薦型選抜は、出願開始が11月1日、合格発表が11月以降から12月以降となった。旧日程では、開始時に私立大の日程がシフトしていた。出願→合格発表を早くすることで、入学者の確保が進むという目算があったからだ。
それだけではない。小論文やプレゼンテーションなどの必須化は、週刊誌に「実質、無試験入学」と嘲笑されてきた私立大の推薦入学のあり方を大きく変えることになりそうだ。
コロナ禍で指定校推薦応募者が増加
私立大への入学ルートは、大まかに言うと、一般入試の他、付属・系列校からの内部進学、旧推薦入試(指定校制、公募制)、旧AO入試がある。
付属校は幼稚舎から慶応高校の慶応ボーイが有名だが、他の多くの私立大にもある。日本大学や東海大学などは、全国的に配置されている。そのため、付属校からの入学者数で1位(2019年度)は日大で4233人、2位は東海大の2254人である。入学者率では逆転して、東海大が34.5%で1位、日大が27.3%で2位となっている(朝日新聞出版「2021年版大学ランキング」より)。
ただ、日大の付属校の中には、進学校化して内部進学ではなく国公立大や早慶への受験組が増えている学校もある。関係者が嘆く声を聞いたことがある。
一方、関西の私立大は、付属校ではないが、一定の進学枠がある系属校が増えてきた。近年は関東にも目立つ。青山学院大学だけでも、16年には横浜英和学院が系属校となり、18年には共学化した。19年には、浦和ルーテル学院も系属校になった。ミッション系は、宗教関係のつながりがあるのであろう。高校サイドにとっても、有名私大との連携・系属化は生徒募集上のメリットが大きい。
推薦入試では、有名私大を中心に昔から指定校制があり、一般の高校でも条件に合えば出願できる公募制推薦とは区別されていた。大学が指定した高校の生徒のみ応募できるが、人数が数名に限定され成績の条件も高いため、応募者ゼロの高校も少なくなかった。
ところが、20年は新型コロナの直撃で本番入試の混乱が予想されるので、この指定校応募を選ぶ高校生が増えている。公募制推薦も同様に増加傾向であるが、小論文やプレゼンテーションなどが課されるようになり、指定校はともかく、公募制では高校サイドでも対策が欠かせなくなり、大学も選抜の準備や実施に手間取っているという状況だ。
推薦入学者数が多いのは、日大が2926人、近畿大が2299人、関西大が2265人で、この3校が2000人以上だ。また、推薦入学者の比率が50%を超えている入学者2000人以上の大規模校は神戸学院大学のみで、52.5%となっている。40%以上だと12校ある。
慶応が初めて導入したAO入試は本来の姿に戻るか
旧AO入試は、慶応大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)にある総合政策と環境情報の両学部が日本で初めて導入し、注目された。学力試験一本槍でなく、高校時代の活動実績や小論文、プレゼン、グループディスカッションなどアドミッションオフィス(入学選抜セクション)が時間と手間をかけて選抜する方法で、平成の時代に他大学にも普及した。本来、旧AO入試は評価方法が多面的な選抜であるため、総合型選抜になっても影響はないはずだ。ただ、AO入試と言いつつも、実質無試験に近くて、今まで手抜きをしていた大学や受験生には負担になるだろう。
特に20年春の入試ではコロナ禍で入試日程が予測できなかったので、受験生にも大きなインパクトを与えた。北海道では3月入試を取りやめた大学もあった。そのため、21年春のコロナ感染拡大で混乱しそうな共通テストなどを含めた一般入試を避けて、総合型選抜と学校推薦型選抜で早めに合格を確保しようという受験生は実際に増えている。ところが、入試日程が後ろにずれたため、小論文やプレゼンの対策と一般入試の直前追い込み時期が完全に重なってしまうので、両面作戦は19年までより難しい。総合型選抜や学校推薦型選抜では、受験生の安全志向が強まっているといわれる。
反面、無試験に近かった中堅私大下位校の総合型選抜や学校推薦型選抜も、これからは受験対策が必要になる。ただ、今後は、受験生が書いた小論文を初めて読んで、「これで本当に大学教育を受けるつもりなのか」と呆然とする試験官も出てくるであろう。
早稲田ら有名私大も一般入試枠を減少へ
今まで述べてきたように、定員割れの恐れのある中堅下位やF(フリーで入れるという意味)ランクの私立大は、受験生の青田刈りができるAO入試や推薦入試を頼ってきた。日程が早かったので、入学予定者を早めに確保できたからである。推薦入試も学校長の推薦書があるだけに、たとえ専願が条件でなくても、合格したら入学する確率は一般入試より非常に高く、入学者確保の安心ツールであった。
そのため、一般入試よりもAO入試や推薦入試のウェイトが高い小規模な私立大も少なくない。今までは前述したように中堅私大下位校や、ほとんど無試験で入れるFランクの大学がほとんどであったが、一般入試枠を減らす動きは有名私大にも及んでいる。私が早稲田大学の広報担当の教授に取材したとき、入学後の追跡調査では、一般入試で入学した者より、推薦、AO、付属校からの入学者の方が大学での勉学の意欲が高く、成績が良いという調査もあるので、将来は推薦、AO、付属校からの入学の比率を高める方向である、と言っていた。
これは早大だけの話ではない。全国に地方試験会場を展開している有名私立大がコロナ禍で会場確保に苦労し、一般入試の期別募集(1~3期など複数回実施)なども、労多くして益少なしという声も出てきている。グローバル人材や主体性のある学生を育てるには、学力一本槍の入試ではなく、旧AO入試のように時間をかけ多面的に審査する方法で、女子学生も含めて多様な受験生を受け入れることができる大学が生き残る、という見方も広がりつつある。
21年入試は、その意味で今後の大学入試の方向を決める試金石と言えよう。
(文=木村誠/教育ジャーナリスト)