国立旭川医科大学(北海道旭川市)は25日、同大附属病院の古川博之病院長の解任を決定した。同大の吉田晃敏学長と古川院長は、昨年、旭川市内で急増していた新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ方針をめぐり、対立が先鋭化していた。同医科大附属病院や同市内の医療関係者に混乱と動揺が広がる中、吉田学長は翌26日、報道機関を集めて会見を開くことになったのだが、そこでも異常な状態が展開されていたようだ。
医科大役員会「ネットでの生配信はお断り願う」
会見に出席したある報道機関のデスクは次のように不信感をにじませる。
「会見は午後3時からの予定でした。吉田学長や役員会の主要メンバー、顧問弁護士らの出席が予定されていました。午後3時、司会者が出席予定者の名前を読み上げたのですが、さっぱり吉田学長らが入って来ない。そのまま司会者もどこかに行ってしまい、20分が経過したころ、病院職員の女性が突然、『すいません生配信されている会社様がございましたら、止めていただけないかという指示がございまして……』などと言ってきたそうです。
つまり、ネットでの生配信が役員会でだめということになったというのです。テレビ局はみな露骨に不快感を示しました。大学側に編集でもさせろというのか、ふざけるなと。一連の医科大の対応は正直に言っておかしなところだらけでしたが、この重要な局面でもそういう姿勢を取るのはちょっと聞いたことがありません。そもそも吉田学長は、ICT(情報通信技術)を用いた遠隔料医療のパイオニアとして、世界から注目を集めている人物です。タイムラグのない動画での情報共有の重要さを、この国で最も理解されているからこそ、マスコミの生放送を不都合だと思ったのでしょうか」
吉田学長と古川病院長の確執は昨年11月、同市内の慶友会吉田病院でクラスターが発生し、その感染者の受け入れをめぐって表面化した。北海道新聞や「週刊文春」(文藝春秋)の報道によると、吉田学長は吉田病院の感染者の受け入れを拒否。古川病院長に対し「受け入れるならおまえが辞めろ」などと言ったとされる。また「文春オンライン」(同)は昨年12月16日、記事『コロナ患者の受け入れ拒否 旭川医科大学学長がクラスター発生病院に「なくなるしかない」と暴言音声』を配信。吉田学長が昨年11月の学内会議で「コロナを完全になくすためには、あの病院(吉田病院)が完全になくなるしかない」などと発言したことが音声とともに公開され、その後、吉田学長は謝罪に追い込まれた。
一方、吉田学長と同医科大は文春オンラインで公開された音声を録音、リークしたのは古川病院長との見解を示し、学内の秘密を漏洩したとして追及を始めていた。古川病院長は漏洩を否定している。
吉田学長は中国との遠隔医療連携には熱心だった
旭川市内の小規模病院に所属する職員は次のように話す。
「吉田病院と旭川医科大の対立を、旭川市民は“なんともなぁ”という感じで見ていましたが、さすがに吉田学長の発言はいただけないと思いました。また、今回、解任された古川病院長は一癖も二癖もある市内の大病院の幹部とうまくコミュニケーションを取って、なんとか市内のコロナ対策をまとめていただけに、正直、動揺しています。昨日から市内の医療機関に、吉田学長の退任を求める署名簿が回っていますよ。
まず吉田病院は市内で、いくつかある緩和ケア診療や看取り看護入院を受け入れている病院の一つです。確かにコロナ対策では不備があったのかもしれません。ただ、終末期の患者や高齢の患者を抱える家族にとって、なくてはならない病院です。もしなくなれば、市内の高齢者関係の医療施設はパンクすると思いますよ。
医科大さんは地域の高度医療を維持する極めて重要な病院であることは確かです。現場の医師や看護師の皆さんはみんな意識も高く、誠実な対応をされていると思います。ただ、病院経営の観点からみれば、遠隔医療に関する中国との提携に熱心で、お金になる分野に全力を注いでいるイメージがありますね。特に吉田学長は去年、いくつかのメディアで中国のコロナ対策に自分が推進した遠隔医療が役立っていると自慢していましたよ」
コメントにある「いくつかのメディア」のひとつは、「現代ビジネス」(講談社)が昨年3月30日に公開した記事『新型コロナ、武漢の「医療従事者感染爆発」を救った日中の感動秘話』のことを指していると思われる。同記事で吉田学長は以下のように述べていた。引用する。
「最近、メディアでしばしば見かける中国国家衛生健康委員会の馬暁偉主任(新型コロナ対策委員長)は、中国衛生部の副主任だった2010年当時、旭川医大の遠隔医療センターを大勢で視察しに来たほど、遠隔医療には強い関心を持っていました。
そして、2011年に私が提案した中国国内での遠隔医療構想の実現に尽力した方です。馬主任に提供した当時の遠隔医療技術が、現在も基盤となって活用されていると信じています。そして、遠隔医療に対する本学の熱意は中国で引き継がれていると確信しています」
確かに中国で吉田学長が推進している医療構想は奏功していたのかもしれない。だが、自分自身の足元である旭川市と医科大でのコロナ対策は果たしてどうだったのであろうか。
(文・構成=編集部)