憲法には、「要求」から「召集」までの期限は書いていない。では、どれくらいの期間のうちに召集するのが妥当か。
それについては、自民党自身が作成した「憲法改正草案」の中に答えをみつけることができる。同草案は、53条後段を次のように改正することを提案している。
「いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があったときは、要求があった日から二十日以内に臨時国会が召集されなければならない」
20日という期限は、多くの人が納得する妥当なものではないか。同党作成の「日本国憲法改正草案Q&A」では、改正の意図を以下のように説明している。
「党内議論の中では、「少数会派の乱用が心配ではないか」との意見もありましたが、「臨時国会の召集要求権を少数者の権利として定めた以上、きちんと召集されるのは当然である」という意見が、大勢でした」
民主党政権となって、自民党が野党となった時期の議論だけに、「少数者の権利」の大切さを感じていたのだろう。現政権の対応は、当時の議論を忘れ、巨大与党となったおごりがなせるものと言うほかない。
「きちんと召集されるのは当然である」のに、安倍政権はそれを行っていない。こういう憲法をないがしろにした脱法行為が平然と行われること自体は、なんとかしなければならない。
自民党自身が20日以内で「きちんと召集される」ことの大切さを明記しているのである。これは、与野党で広く合意できる事項だろう。憲法改正の論議をするなら、まず53条からすればよい。
あるいは、もっと早く、現実的に政府のこのような横暴をただすには、国会法を改正するという道があるだろう。国会法には、次のような規程がある。
〈第3条 臨時会の召集の決定を要求するには、いずれかの議院の総議員の四分の一以上の議員が連名で、議長を経由して内閣に要求書を提出しなければならない。〉
ここに、「内閣は、要求書が提出されてから、20日以内に臨時国会を召集しなければならない」という趣旨の一文を付け加えればよいだろう。
現政権がこうした法改正を自発的にするとは考えにくい。まっとうな自民党員を含め、広く超党派で議員立法として提出したらどうか。
「自己都合」での解散を防ぐために
もうひとつ、内閣の「解散権」についても考えたい。憲法には、不信任決議が可決(もしくは信任決議が否決)した場合に、衆議院の解散もしくは総辞職をしなければならないという規程を除いて、どういう場合に衆議院を可決できるか、書いていない。第7条に、「内閣の助言と承認」で行う天皇の国事行為のひとつとして、「衆議院の解散」が記されているだけだ。
この7条を根拠に、本来は4年の任期を国民から負託されている衆院議員を、内閣(現実には首相)の一存で全員クビにできる、という強権を認めることが、果たして適切なのだろうか。少なくとも、国民に信を問うにふさわしい理由や、多くの人が納得する事情が必要だろう。
たとえば、小泉政権時の「郵政解散」。政府が提出した郵政民営化法案は、衆議院で少なからぬ与党議員が「反対」もしくは棄権したが、僅差で可決。ところが、参議院では「反対」票が多く、法案は否決された。すると、小泉首相は衆議院を解散し、造反議員は公認せずに「刺客」を送って排除を狙うという形で選挙を行った。
参議院で否決されたのに、衆議院を解散するという分かりにくさもあり、小泉政権の対応は、解散権の濫用ではないかとの批判もあった。憲法学者の間でも違憲か合憲か評価が分かれている。
それでも、この時には郵政民営化法案の是非と小泉政権の手法など、政策や政権運営についての判断を主権者である国民に問うという、民主的な動機があった。
今回の安倍首相による解散はどうか。
少子高齢化や北朝鮮問題を挙げた安倍首相の説明に納得した人はきわめて少ない。そもそも、この2つの「国難」への対応が急務であるとするなら、解散ではなく、臨時国会の開催になるはずだ。