永田町に吹き荒れた衆議院の解散風。自民党の二階俊博幹事長や森山裕国会対策委員長、下村博文政調会長ら執行部が口にし、菅義偉首相自身も内閣不信任決議案提出は「解散の大義になる」と言って野党を牽制。当選回数の少ない若手議員を中心に慌ててポスターを発注するなど右往左往した。
しかし、これから新型コロナウイルスのワクチン接種がようやく本格化するというタイミングで、自治体が投開票所の設営準備などに人手や時間を避けるわけがない。どう考えても解散は非現実的。案の定、読売新聞が4月9日に『首相 「春解散」見送りへ』と打ち、他のメディアも追随して、解散風は一気にしぼんだ。これで解散は東京五輪・パラリンピック後の秋に絞り込まれた。
「菅政権にとっては、まずは4月25日の国政3選挙が重要。衆議院の北海道2区補欠選挙と参議院の長野選挙区補欠選挙は最初から負けを見込んでいるので、参議院の広島選挙区再選挙で1勝をあげたいが、公職選挙法違反の河井河井克行・案里夫妻の問題が影響し戦況は芳しくない。もっとも3戦全敗したとしても菅降ろしになる状況ではなく、むしろ地元の広島県連会長でもある岸田文雄前政調会長が痛手。秋の総裁選への芽も摘まれかねない。菅首相にとって広島は、勝てば自分の手柄、負ければ岸田氏の責任」(自民党ベテラン議員)
7月の東京都議会議員選挙と衆院選のダブルという見方もあるが、都議選を重視する公明党・創価学会が絶対にNO。断行すれば公明票の目減りは避けられず、菅首相は解散を打ちにくい。東京五輪が中止にでもならない限り、残されたタイミングは秋しかないのだ。
秋の解散で焦点となるのは、衆院選が自民党総裁選の前なのか、後なのかだ。菅首相が描く総裁選再選シナリオは、東京五輪で支持率をアップさせ、その勢いのまま解散。衆院選で勝利し、総裁選は事実上の無投票再選だとされる。
「現状、自民党の衆院の議席数は最大規模なので、次の選挙では減る可能性が高い。安倍前政権時代から予想されていたような20議席減くらいに留まれば、菅氏は勝利といっていい。50議席減らす可能性もないとはいえないが、それでも自公で過半数維持ならば続投だ」(前出の自民党ベテラン議員)
「菅氏は9月まで。再選はない」
そして安倍晋三前首相と麻生太郎財務相のコンビが、このシナリオを阻止しようとしている。
「安倍氏は、菅首相はあくまでも前任者の残り任期だけのピンチヒッターと考えてバトンを渡した。安倍氏と麻生氏は『菅氏は9月まで。再選はない』と考えている。今は『ポスト菅』を値踏み中」(安倍氏に近い関係者)
安倍、麻生の両氏が描くのは、すでに自民党内に蔓延しつつある「菅首相の看板では衆院選が戦えない」というムードによって菅首相の解散権を封じ込め、先に総裁選を実施、看板を替えてから解散総選挙というシナリオである。
「ポスト菅」を選ぶ総裁選には、河野太郎行政改革担当相、西村康稔経済再生担当相、野田聖子幹事長代行、石破茂元幹事長、下村氏、岸田氏などいくつもの名前が挙がっている。そんななかで、安倍・麻生コンビの推薦を得ての出馬に虎視眈々なのが茂木敏充外相だという。
「菅首相の訪米では、外国首脳として最初のバイデン大統領との会談を取り付けた。主導したのは外務省で、茂木氏は自分は点数を稼いだと鼻息が荒い。閣内では麻生氏に接近してもいる」(官邸関係者)
さて、菅首相の再選は、あるのかどうか。
(文=編集部)