設置台数世界一の“ギネスゲーセン店”が語る「コロナ禍」…緊急事態宣言と除菌のお値段
コロナ禍における飲食店が苦境に立たされていることは、多くのメディアが報じている通りだ。しかし、新型コロナウイルスの流行によってダメージを受けているのは、飲食業界だけではない。同じく深刻な影響を被っている業界として挙げられるのが、ゲームセンターなどのアミューズメント業界だ。1月には東京でも、老舗ゲームセンターとして知られた「シルクハット池袋」(旧名・GAMEサントロペ池袋/東京都豊島区)や「GAME SPOT21新宿西口」(東京都新宿区)などが閉店し、多くのファンたちに悲しみを与えることとなった。
ライブハウスやパチンコ店と並び、ゲームセンターは感染リスクが高い場所だと考えられており、2020年11月にはなんと、ゲーム業界大手セガサミーホールディングスが、ゲームセンター運営事業を売却、ゲームセンター事業からの事実上の撤退を行うなど、暗い話題が続いている。
こうしたなか、ゲームセンターはどのような形で生き残りを図ろうとしているのか? 現状を聞くため、クレーンゲームに特化しファンの間では有名なゲームセンター「エブリデイ 行田店」(埼玉県行田市)を訪れた。同店は、2012年にクレーンゲームの設置台数240台というギネス記録を打ち立てたことでメディアに取り上げられるなど、遠方から訪れる客も多いことで知られる人気店。その店長である五十嵐直也氏と、運営会社である株式会社東洋の広報部統括マネージャーである緑川裕一氏に、コロナ禍におけるゲームセンターの運営について語ってもらった。(取材は2021年1月下旬)
ファミリー層のお客が多いため、コロナ禍で売り上げは50%以上の大幅ダウン
――2021年1月7日より発令された「緊急事態宣言」ですが(首都圏の1都3県では3月21日に解除)、やはりゲームセンターをはじめとしたアミューズメント業界は、大きなダメージを受けることとなってしまったのでしょうか?
五十嵐氏:そうですね。当社はクレーンゲームに特化したファミリーアミューズメントで、家族連れの方やご友人同士でいらっしゃる方がメイン。つまり複数人数でのご来店が多いという性質上、どうしても厳しい部分はありました。
――2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令され5月に解除され、そこから8カ月ほどで2回目の宣言となったわけですが、この間、平時と比べると売り上げはどうでしたか?
五十嵐氏:それなりに波があったのは確かですが、やはり平時に比べれば少なかったと思います。特に昼間のご来客が減りましたね。当店の場合、学生さんの帰宅時ですとか社会人の方のお仕事後などの来店が多く、15時から17時半ぐらいまでがピークタイムなんです。休日でも、お食事をされたあとに来店される家族連れの方や、遠方からいらっしゃって近くの商業施設に寄ったあとに来店される方が多いもので……。
――ピークタイムである昼間の来客数が減るとなると、かなり厳しいように感じられます。具体的に、売り上げはどの程度減少しているのでしょう?
五十嵐氏:いやあ、それはもう、以前とはだいぶ違いますね。
緑川氏:50%以上の減少ではないでしょうか。
――半減ですか……。そういう厳しい状況下で、どのような努力をされていますか?
五十嵐氏:やはり売り場の作り込みや、それから接客態度などにより気を付けるようにはしていますね。店内の雰囲気や、従業員の挨拶のあるなしだけでも、お客さまからすればかなり印象は違うでしょうし。また、クレーンゲーム自体も、お客様が「取れそうだな」と思えて、100円を投入したくなるような台をより多く用意することで、お客様ひとり当たりのインカムが少しでも増加するよう努めています。ゲームセンター自体はたくさんあるわけですから、そのなかでどう差別化し、お客様に選んでいただける店舗にするか……という点は、やはり非常に重要ですから。
コロナ感染者が発生して業者に除菌を依頼した場合、費用は一店舗で数百万円
――飲食店などでも重要なのが、やはり新型コロナウイルスに対する感染対策でしょう。エブリデイさんでは、どのような対策を?
五十嵐氏:クラスター感染など絶対に起こさないために、換気とスタッフの手指の消毒やうがい、クレーンゲーム台の除菌をこまめに行うことでしょうか。またお客様に対しても、非接触型体温計による検温や、マスクの着用をお願いしています。また、景品の梱包や、お客様の使われた紙幣の消毒なども、できる限りはやっていきたいと思っていますね。過剰に思われる部分もあるかもしれませんが、この状況下でお客様が安心して遊べる環境をつくることこそが必要かなと考えています。
――大手でいえば2020年12月、タイトーが運営するゲームセンター「タイトーFステーション アル・プラザ鶴見店」(岐阜県大垣市)が、従業員1名の新型コロナウイルス感染を発表しています。これはクラスター感染ではありませんが、こうした発表を聞いて、より厳しい対策をとる方針へと転換するようなことはあるんでしょうか?
五十嵐氏:万が一感染者が発生した場合には、全館消毒を行うことになっています。もしそうなってしまった場合には、全従業員が手袋を着用し、一日で数回換えるとか、そういう対策も検討していますね。
緑川氏:1回目の緊急事態宣言の際、弊社代表が、「(感染者を)出さないのがいちばんだけど、もし出てしまった時のために、除菌をやってくれる会社を探しておけ」との通達を出しましたね。
五十嵐氏:うちぐらいの規模の施設で除菌を行った場合でも、数百万円はかかるそうなんですよ。とはいえ、お客様や従業員の安心や安全のためにも、それはもう必要でやらざるを得ないことですからね。
――飲食店チェーンでは、不採算店舗を閉店するといった動きも多く見られます。その点、御社はどのようにお考えなのでしょうか?
緑川氏:2020年の1回目の緊急事態宣言の際には、弊社幹部からそういう話も出ていましたね。
――そうしたなか、全店舗の継続を決められた理由とは?
五十嵐氏:弊社代表が長くこの事業にたずさわってきたというのがもちろん大きいですし、この苦境でも何かしらできることはあるのではないかと言うんです。弊社は全体的に非常にポジティブというか前向きなので、「頑張って乗り切ればなんとかなるよね」という志がある集団であった……というのが大きな要因でしょうね。
昨年の緊急事態宣言では、店舗休業で大量の景品があまり、置き場所探しで大混乱
緑川氏:そもそも、閉店したから出費が減るかというと、そうでもないんですよ。2020年の緊急事態宣言は、タイミング的にゴールデンウィーク前だったじゃないですか。
――第1回目の発令は、2020年4月7日でしたね。
緑川氏:うちの業態って、ゴールデンウィークや夏休みが書き入れ時なんですね。商品の仕入れはだいたい3カ月前に発注するものなんですが、発注時にはまだまだコロナ禍がこんな大変なことになるとは思っていなかったので、例年通り、大量に発注してしまったんです。
――なるほど……。
緑川氏:緊急事態宣言が出たあと、弊社では全店舗を4月8日から臨時休業し、5月30日から営業再開しました。その結果、書き入れ時を逃しただけではなく、大量に発注した商品の在庫にも困ることになりまして、「景品を置く場所がありません! 助けてください!」というチラシを店舗に出したりしましたね(笑)。弊社の場合、景品在庫のためにあえて倉庫をレンタルするなどはしてこなかったので、これまでそこにかかる出費はなかったわけです。景品を置いておくスペースがないからといって雨ざらしにでもしてしまえば商品価値はゼロになってしまいますので、なんとか屋内に押し込めてですね……。
五十嵐氏:もう利益度外視で、「お客様に還元する」ということで、たくさん取っていただいて、助けてもらいましたね。
緑川氏:加えて、毎月の景品発注に対する支払いが当然ありますからね。平時ではそれを日々の売り上げから支払っているわけですが、営業を止めてしまった結果、そちらの資金繰りの問題も発生しました。
――では、2021年1月からの2回めの緊急事態宣言でも、そうした余剰在庫は発生してしまったのでしょうか? そこから3カ月前となると、ちょうどGo Toキャンペーンが本格化した2020年10月あたりということになります。そうした時期に発注するとなれば、やはりある程度多めの発注をしてしまわれたのでは……とも考えられますが。
五十嵐氏:いえ、今回は再流行が来る可能性を考え、かなり抑えた数量で発注していたので、余剰が生まれることはありませんでしたね。
緑川氏:あと、今回の宣言は1月7日からで、書き入れ時である年末年始にかけてはまだ緊急事態宣言が出ていなかったのも、不幸中の幸いでしたね。
五十嵐氏:ただ、例年であれば年末年始は爆発的に来店数が増えるんですが、今回はやはり、かなり少なかったですね……。
アミューズメントが不調な一方で、金価格の高騰でリサイクル事業は好調
――Go To キャンペーンは飲食店や観光業への支援であって、アミューズメント業界は、例えば旅行者の増加によって来店者も増える……という間接的な形でしか恩恵にあずかれなかったのではないですか?
五十嵐氏:今回の緊急事態宣言では、ゲームセンターはあくまで、営業時間の短縮を要請されただけですからね。といって、時短要請に応じた飲食店に対して給付される協力金のような支援もないという状況で……。
緑川氏:2020年の1回目の緊急事態宣言についても、もちろん持続化給付金の申請はでき、給付はされましたが、業界全体に対する直接的な支援はありませんでしたしね。
――やはり国から、何かしらの支援はしてほしいという気持ちはありますか?
五十嵐氏:それはもちろん。
緑川氏:とはいえ、どうしても我々の業界は、あくまでも「娯楽」ですからね。飲食業界などに比べれば、我々の業界の優先順位が低いというのは、まあ理解はできますしね……。
五十嵐氏:ですが、今回のコロナ禍で例えば大人たちはテレワークを強いられ、子どもたちは外で遊べないとか、そういうストレスもあるかと思います。そういった負荷を少しでも軽減させられるサービスのひとつではないかとは、自負しています。だからこそ、支援対象にしていただければ……という気持ちは、正直ありますよね。
――コロナ禍は、まだまだ終息には時間がかかるといわれています。今後の方針などは、御社内ではどのようにお考えなのでしょう?
五十嵐氏:現在は実店舗でのリアルなクレーンゲームの経営をやっているわけですが、それとは別の業態を考えたりはしていますね。例えばオンラインクレーンゲームへの参入といったものもアリでしょうし、時流を見つつ、さまざまな検討をしていくことにはなると思います。
緑川氏:弊社はクレーンゲーム事業以外にも、ブランド品や貴金属などを扱うリサイクル事業もやっております。実は、クレーンゲーム事業が苦境に立たされている一方で、最近は金価格が高騰していることもあり、このリサイクル事業は非常に好調なんです。そういったところでバランスを取っている……というところでしょうか。
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ゲーム好きのなかではこれだけの知名度を誇る「エブリデイ」でさえも売り上げが半減し、別事業でなんとかバランスを取っているとなれば、やはりアミューズメント業界におけるコロナ禍の影響は、他業界同様、はかりしれないものがあるといえそうだ。
続く【後編】では、専門店の視点から見るクレーンゲームの特性や、五十嵐氏が今後の参入分野のひとつとして挙げた「オンラインクレーンゲーム」についての考えを聞いていこう。
(文=編集部)