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六代目山口組トップ・司忍組長を相手に「特殊詐欺の使用者責任を問う」提訴の是非

文=山口組問題特別取材班
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六代目山口組・司忍組長
六代目山口組・司忍組長

 反社会的勢力として位置づけられたヤクザにとって、彼らを縛る法律の定義は時代とともにその解釈が大きく変わろうとしている。

 これまで暴力団対策法に基づいた使用者責任とは、あくまで暴力団の威力を背景に利用しながら、人を脅したり、金品を要求したりすると、当事者の組員だけでなく、その組織のトップにまで責任が問われることがあるというものが一般的だった。だが、近年では、特殊詐欺という莫大な被害を生み出している犯罪の背景には、暴力団が暴力を利用し、俗にいう「出し子」や「受け子」といった犯罪の実行犯を管理しているという構造を踏まえ、ここにも使用者責任が発生するという解釈が生まれたのだ。

 この特殊詐欺絡みで、すでに関東の2大組織である住吉会稲川会のトップが使用者責任を問われている。下部組織に在籍する顔も見たことのない組員が特殊詐欺にかかわったことによって、トップが被害者から損賠賠償請求訴訟を提訴され、最高裁で賠償金の支払いを命じる判決が確定しているのだ。そしてついにそれは、日本最大ヤクザ組織、六代目山口組司忍組長にまで及ぶことになったのだ。

 訴訟請求の理由によれば、現在服役中の六代目山口組系4次団体の元組員が2019年1月に起きた特殊詐欺事件に関与したことで、この事件の被害者が、暴対法31条の2に基づき、山口組のトップである司組長にも連帯して約2600万円の損害の賠償をする責務があるとして訴訟を起こしたのだ。

 六代目山口組では発足当初から、当時はオレオレ詐欺とも呼ばれていた特殊詐欺に関与することを禁じる通達を組員に通達してきている。仮に関与した場合、理由に問わず厳しい処分を下す方針を取っており、現にその規律を破った者には破門や絶縁を言い渡してきた。

 「それは山口組に限ったことではない。どこの組織でも、覚せい剤と同様に特殊詐欺に関わることを禁じている。だが、実際のところ、どちらにも組員が関与しているケースがあるのは事実だ。もちろん、それが発覚すれば、規律違反を犯したとして、組織からは追放される。ただ、そうした組員が、代紋を使い、その威力によって被害を与えているかといえば、そこは違うといえる。まず、組員は被害者に代紋を見せつけるどころか、身分を明かすことすらないのだ。そこで、出し子や受け子に対して威力を発揮しているという論理を持ち出したのだろうが、いずれにせよ、顔も見たことのない末端の組員が関与した事件で、一次団体のトップが使用者責任に問われるのは、ヤクザに対してでないと成立しない話だろう。この解釈はさすがに無理筋ではないかと、法律の専門家でも異論を捉えている者がいる」(事情通)

 今回の裁判の訴状には、司組長は山口組の組長として山口組を代表する立場とあり、平たくいえば末端であれ、山口組組員が起こした事件には、その責任があると結論付けている。ただ、今回の事件には、当時の住吉会系組員も関与しており、実刑判決を受けている。

「不法行為を働いたこのグループは、有機的一体型といって、かけ子、出し子、受け子、連絡調整、指示、手配、統括などと細分化されている、いわゆる定番の特殊詐欺グループの形態となっています。グループ内のやりとりについては、いまだに盗聴ができず、通信履歴が追えないといわれているスマートフォン向けアプリ『シグナル』を使用し、各々の活動状況を確認していたと訴訟に明記されています。ただ、訴訟の対象となっている元組員には、搾取金額の3パーセントしか渡っていない。その元組員と司組長だけに、被害総額を賠償させるという訴訟の正当性は議論の余地があるのではないでしょうか」(犯罪事情に詳しいジャーナリスト)

 また、原告側としては、あえて組織トップを巻き込むことで、特殊詐欺の抑止力になるだろうという狙いもあるといわれる。いずれによせ、今後こうした訴訟が活性化する可能性は低くないだろう。

山口組問題特別取材班

山口組問題特別取材班

ヤクザ業界をフィールドとする作家、ライターおよび編集者による取材チーム。2015年の山口組分裂騒動以降、同問題の長期的に取材してきた。共著に『相剋 山口組分裂・激動の365日』(サイゾー)がある。

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