計算式の問題点
表面積が(1)~(3)に分かれているのは、(1)の303平方mは9.9mの基礎杭(総数382本)の杭頭部の面積総合計である。杭一本の表面積は、約0.8平方m、大人が両手で円を描いた大きさである。(2)は建物の敷地で、(1)の杭を除いた部分の面積。(3)は建物の周辺部分と説明されていた。(2)と(3)は3.8mまで掘削するとした。計算はそれぞれの表面積に深さを掛けて、土砂量の掘削容積を算出し、その上で土砂量中のごみの混入率「0.471」、約50%を掛け、ごみ量を算出し、それに比重をかけて総トン数を算出している(註3)。
この計算式の問題点は、以下の通り。
(1) 森友学園が15年の時点で、深さ3mまでの埋設ごみの撤去していたことを数式上反映していないこと。反映すれば、深さを掛けるにあたり「9.9m」ではなく「9.9-3m」。「3.8m」ではなく「3.8-3m」としなければならなかった。
(2) さらに深い3m以深にごみの混入率が「0.471」と、つまり約50%もごみが混入している「ごみだらけの層」があること。計算上は、今回算定対象とした5190平方mの部分の地下に、6~7mの厚さのごみだらけの層があることになる。
今回注目されている上記(2)の「0.471」の混入率、約50%という数字データが、いかに荒唐無稽であるかは、国会の論議でも問題になったことでわかる。50%に基づいて算出された約2万トンのごみを取り出すためには、約4万トンの廃棄物混合土(ごみと土壌混じりの土)を掘削して掘り出したことになる。その4万トンの掘削土を10トントラックで運び出すとすると4000台のトラックが必要になる。
そのため、昨年の国会(17年2月17日)で福島伸享前民進党議員が、この件を指摘していたのである。この発言を受けて、理財局が森友学園に「4000台のトラックで運び出した」と口裏合わせを依頼していたことは、今年になって太田充理財局長が認めた。
翻って森友学園用地は、大阪国際空港の離発着の騒音公害が訴えられていた住宅地である。国交省大阪航空局が騒音地域として買収に入り、のちの阪神淡路大震災を経て防災避難公園のために買収完了した土地である。
この住宅地は、もともと田んぼや池のあったところに、ガラや石、土砂を投入して打ち固めた上で、養生して住宅地として整備したところである。こうしてできた土壌は、一般的に「盛り土層」といわれ、その深度は約3mほどである。それ以上の深さになると太古の時代からつくられてきた堆積層になる。大阪に限らず関東平野部なども同じような宅地や商業地などの開発の経過をたどり、3m以深の堆積層から貝殻は出ることはあっても、ビニールなどのごみが出ることはない。もし地下深部からごみを50%も含む土壌が出てくるとすれば、そこがもともと埋め立て処分場でもない限りあり得ない。もちろん今回の用地は、元処分場ではない。
国交省のデータ改竄・偽装が明らかに
では、このような深部に50%ものごみが混入されているという推定は、何を根拠にして算出されていたのか。昨年、会計検査院の検査結果が国会に報告された発表当日(2017年11月22日)、野党へのヒアリングで国土交通省が配布した資料「国土交通省提出資料」(写真2)に、この「0.471」(=50%)の根拠を示す文書(写真4)が提出され、動かぬ改竄の跡が残されていたことがわかった。
そこには、「0.471」の数字データの根拠として、写真4・図表4に示したように「地下埋設物調査における解析結果(混入率)」の一覧表が示され、掘削番号(32)から(59)番号まで28カ所それぞれの埋設ごみの混入率が示されている。そして、確かにこの28カ所の平均値を計算すると混入率は「0.471」である。
ところが、この28カ所のデータは、2010年に大阪航空局が同用地の調査報告書(以下「報告書(2010)」)(註4)で調査した数字データを原本にし、写し替えていたことがわかった。
図表4で見るように、今回の一覧表のデータ(番号32から番号59)と「報告書(2010)」の同じ番号(手書きで記載)データを比較すると、ごみの混入率は0.1~0.4%程度数値を変えているものの、ほぼ同じであり、一覧表のデータは「報告書(2010)」)から引用したことは明らかであった。ちなみに、原本である「報告書(2010)」の28カ所のデータも、平均値は「0.471」である。
しかし、この「報告書(2010)」は、同じ用地を地中レーザ探索器で調査した上、約3mの深さの浅い部分、盛り土層部分に埋設ごみがあることを見つけ、調査をしたものであり、68カ所を試掘し、その時の埋設ごみの様子を報告したものである。
この「報告書(2010)」が、「新たに見つかった埋設ごみ」の混入率の根拠を示す原本になっていたとすると、国交省が一覧表(図表4)で示したデータは、「新たな埋設ごみ」ではなく、2010年の時点で存在がわかっていた埋設ごみのデータということになる。そうなれば経過の流れからいって、15年に土壌改良工事の際にそれらの埋設ごみは撤去されていたはずであり、撤去前のデータに基づき、撤去後のごみ量を推定していたことになり、大きな問題をはらむことになる。
写真5は、「報告書(2010)」に記載されている「番号」に対応した「ごみの混入率」「確認埋設物の状況」についての記載個所である。その記載内容を見ると、
たとえば番号32では「混入率」が36.5%、「確認埋設物の状況」として次のように記載されている。「0~1.5m:礫混じり砂(Coガラ多い)1.5~3.0m廃材・ゴミの層(木材、生活用品など)異臭アリ3.0m付近:粘土」
番号35は52.2%で、「0~1.0m:礫混じり砂(Coガラ多い)1.5~3.0m廃材・ゴミの層(木材、生活用品など)異臭アリ3.0m付近:粘土」との記載があり、深さ3mまでのところには廃材・ごみがあることを示しながら、2.5mより深い3m付近の深さでは、ほぼ一様に粘土との記載がある。そして3m以深の地下には埋設ごみはないとなっている。
また例外的に記載されている4カ所についても、深さ1.0~3.2mもしくは3.3mの範囲で廃材・ゴミが存在するとし、3.3m付近は、粘土との記載がある。「報告書(2010)」では、埋設ごみがあるのは3m(もしくは3.3m)より浅い部分であるという報告になっている。3m以深の深いところには、埋設ごみは例外的にしかない。ところが、国土交通省大阪航空局は、それを図表4の「地下埋設物調査における解析結果(混入率)」(写真4)とまとめた時には、3m以深の埋設ごみの混入率のデータとして改竄していたのである。
会計検査院も新たな検査報告を行う必要
今回明らかになった「国土交通省提出資料」によって、「0.471」の数字の根拠が「報告書(2010)」にあり、深部を新たに調査したデータの平均値ではないことがわかった。この「報告書(2010)」によれば、試掘の前に「地中探索レーザで調査し、地中埋設物があると判断した個所について、地下埋設物の形状、材質、埋設量などを把握するために試掘した」とある。その試掘箇所が68カ所であった。
その68カ所の報告データを見ると、埋設ごみの種類として、「コンクリート」「廃材・ゴミ」「ヒューム管」「基礎コンクリート」等が記載され、今回28カ所ピックアップしたのは、「廃材・ゴミ」がある個所であり、その31カ所中混入率の高い28カ所をピックアップしていた。
「報告書(2010)」のデータでは、盛り土層に当たる浅い部分に埋設ごみがあることをレーザ探索した上で調査していたが、そのデータを、まるで深いところを測定したデータのように偽装し、その平均値である「0.471」が3m以深のごみの混入率であるように改竄していたことがわかったのである。
この核心部分について、会計検査院の報告書(P.67)では、「地下構造物調査において、本件土地に対して、地中レーダ探査を実施し、解析した結果、地下埋設物が存在する可能性があるとした68カ所を試掘して、廃棄物混合土の層が存在されるとした28カ所」と記載し、報告書(P75)にはその28カ所に「限定した平均値を用いることについては、十分な根拠が確認されない」との記載がある。
しかし、会計検査院の報告では、その調査した報告書が、埋設ごみを撤去前の「報告書(2010)」であるとの記載はない。そのため、調査による解析の結果、国交省大阪航空局が、ごみの混入率の平均を「0.471」とし、埋設ごみ量を1万9520トン、約2万トンとし、値引料8億2000万円に計算した点根本的な誤りがある点について、チェックを入れてはいない。
結局、会計検査院も本件用地において埋設ごみがどれだけあるのかを検討するに際して、国からの偽装・改竄されたごみの混入率の「0.471」に基づき、検討していたということになる。この数値を使うことは、問題あるとはしていない。その意味では、今回見つかった偽装・改竄数値を見直した上で、会計検査院も新たな検査報告を行う必要がある。
実際、この「報告書(2010)」は、国と森友学園が貸し付け契約を締結する際に、契約書の5条にこの調査報告書を明記し、埋設ごみを撤去した時には除去費用を「有益費」として国が支払うことを第6条に明記している。実際に図表2に示したように、埋設ごみの撤去費用と除染費用の合計1億3176万円を支払っていたのである。森友学園は、そのごみの存在を前提に契約を結び、だからこそ契約(15年5月29日)後すぐ、土壌改良工事に入り、埋設ごみの撤去作業を行っている。その工事を森友学園から請け負ったのは、株式会社中道組であり、翌年中道組は撤去ごみの種類と量を産廃マニフェスト(平成28年度)で総計953,1トン、約1000トンとして報告していた。
つまり、問題になるのは、新たに見つかった埋設ごみの総量であったにもかかわらず、そのごみを撤去する前の調査データに基づき、しかも地中浅い部分のデータを深い部分のデータとして偽り、2万トンを算出し、約8億2000万円の値引きを行っていたのである。今回、もともと「存在しない」ごみを「ある」として、しかも2万トンもあると算定していたことがよりはっきりわかった。
財務省の契約書締結における決裁文書の改竄に引き続き、国交省でも森友問題の核心部分において、改竄が行われていたことが明らかになった。改竄・偽造は、今の政権下での官僚機構の病理になり、“改竄ウイルス”はとどまるところを知らず広がっている。安倍内閣の責任は、もはや免れない。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
【表1:経過概略】
2010年1月 「平成21年度 大阪国際空港豊中市場外市場(野田地区)地下構造物状況調査業務 報告書(OA301) 国土交通省大阪航空局」=「報告書(2010)」
2012年
2月 「平成23年度 大阪国際空港場外用紙(OA301)
土壌汚染深度方向調査業務 報告書 大阪国際空港補償部」
3月 大阪音大、購入希望(約7億円)。
7月12日 近畿財務局 鑑定評価書(森井総合鑑定株式会社作成)
鑑定額9億300円 埋設ごみの撤去工事費用:8437万円
7月25日 大阪音大 買い受け断念
2013年6月 公用・公共用の取得(売却)要望の受付開始。
9月 森友学園が取得要望書提出。
2014年12月 (仮称)M学園小学校新築工事 地盤調査報告書
2015年1月27日 大阪府私立学校審議会。学校法人として条件付き「認可適当」
2月10日 国有財産近畿地方審議会。森友学園に貸し付け、売却「処理適当」
5月29日 貸し付け契約締結。(売り払い前提の特例処理)
7月~11月 土壌改良(埋設ごみ&除染)工事。3mまでの深さの埋設ごみ撤去と5カ所の重金属汚染の除染。代金1億3176万円。
2016年3月11日 3m以深に新たな埋設ごみが見つかる。
4月14日 大阪航空局から近畿財務局に「不動産鑑定評価について(依頼)」
4月22日 近畿財務局から山本不動産鑑定士事務所に依頼
5月31日 同山本不動産鑑定士事務所「不動産鑑定評価書」近畿財務局に提出 更地価格のみ鑑定。新たな埋設ごみの算定(大阪航空局)は、鑑定除外。
6月20日 近畿財務局にて売買契約締結
・契約金額(1億3400万円)
=鑑定価格による更地価格(9億5600万円)
―大阪航空局が算定した撤去費用(約8億円)
2017年11月22日 会計検査院 検査結果報告
同 国土交通省提出資料(国会議員にレクチャーで提出)
同 財務省 「資料」提出。
【注釈】
註1:ここでは、処分しなければならない埋設ごみ量を1万9520トン、約2万トンとし、その撤去やごみの分別、運び出し、処分費用を1トン当たり2万2500円とし、その他作業のための仮設施設などの準備費用を合わせて約8億円と計算している。
註2:15年7月から11月にかけての土壌改良事業の元受請負業者は、中道組。除染の運搬・処理は、チョウビ工業。埋設ごみの撤去量は、中道組の産廃マニフェスト(平成28年)から。金額は、会計検査院報告をベースに消費税分を含めた金額。
註3:補正係数は、昨年国会審議が始まる前に、明らかにされていた計算式にはなかったが、計算結果とごみ量の容積と示されていた容積の値が異なっていたため、福島みずほ参議院議員が指摘。その後、補正係数として「1.2」が示された。
註4:「平成21年度 大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)地下構造物状況調査業務 報告書(OA301) 平成22年1月 国土交通省大阪航空局」