矛盾孕む「立法趣旨」
このように問題の多い裁量労働制に加えて、政府が冒した最大の過ちは、「立法趣旨」そのものが矛盾していた点だ。そもそも新しい法律をつくる、あるいは法律を改正する場合は、正当性を担保する事実なり、人々が納得できるような立法趣旨が求められる。
裁量労働制拡大の是非はさておき、政府は当初から「働き方改革関連法案」について日本の長時間労働体質を変えていくことを立法趣旨に掲げていた。その方策の一つとして、これまで法律上は青天井だった労働時間に上限を設けること(罰則付き上限規制)。もう一つが自分の裁量で働く時間を決められ、出社・退社が自由にできる「裁量労働制」の拡大と「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」の創設である。
政府は、自由な働き方ができると労働時間も短くなり、子育てや介護に時間を割くことができ、仕事と家庭の両立が可能になると主張してきた。裁量労働制には企画業務型裁量労働制(企画型)と専門業務型裁量労働制(専門型)の2つがあるが、実際の労働時間が9時間や10時間であっても、会社が見なした労働時間が8時間であれば、割増賃金(残業代)を支払わなくてもよいとする制度だ。
たとえば、みなし労働時間を9時間とした場合、法定労働時間の8時間を超えているので、1時間分の割増賃金を織り込んだ手当をつける必要がある。政府は企画型について新たに法人営業職などに拡大しようとしていた。確かに出勤・退勤の自由があり、自分の裁量で業務量が調整できれば、政府が言うように長時間労働は減るかもしれない。
だが前述したように、実態は短くなるというデータは存在しなかった。しかも裁量性についても実態を見ると疑問だ。先に紹介した労働政策研究・研修機構の「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果」によると、日々の出退勤において「一律の出退勤時刻がある」と答えたのは専門型の社員が42.6%、企画型が49.0%の割合を占めている。半数近くの人が、会社によって出退勤時刻で縛られている。しかも、企画・専門型の社員の40%超の社員が遅刻した場合は「上司に口頭で注意される」と答えているのだ。