また、労働政策研究・研修機構は4月16日、野党議員の求めに応じてこの調査の「自由記述欄」を公表している。それによると会社で企画型の適用を受けている社員から以下のような声も上がっている。
「朝の所定の時間から夕方の所定の時間まで、1日8時間の勤務が求められており、あまり裁量労働制の意味がないと思われる」
「現状では、残業代なしで会社のやらせたいことをやらせるだけの制度になっています。(弊社においては)部署が変わったので多少楽になりましたが、それでも月200時間は仕事をしています。制度を維持するなら、適切な労働時間、給与となるよう改善してほしい」
「どこまでが基準給与で、どこまでが裁量(みなし)かが不明確。しかも裁量がない。会社の都合(残業代支払いのほうが高くつくなどの理由)から、『みなし』となっている会社が多いように感じる」
要するに「自由な裁量」を謳いながらも、長時間労働で「不自由な働き方」をしている人が少なくないのだ。
高プロ制度の前提崩壊
裁量労働制を拡大すれば「日本の長時間労働を減らす」という政府答弁は、明らかに矛盾している。それに照らせば、今国会に提出された新たに創設される「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」も同様に、労働時間が短くなることはないはずである。高プロ制度は裁量労働制と違い、深夜労働や休日労働の残業代も支払う必要がなく、法律に定めている休憩・休息時間を付与する必要もない。労働時間規制を適用除外とするアメリカのホワイトカラー・エグゼンプションと同じものだ。
もちろん高度の専門職であること、年収が「平均給与額の3倍を相当程度上回る」という条件がついている(具体的には年収1075万円以上)。政府は条件が限定されているし、会社側と交渉力のある労働者にしか適用しないと説明している。
だが「交渉力のある労働者」とは「この条件はのめないので、会社を辞めて他社に行きます」と言えるぐらいのバーゲニングパワーを持つ人のことだ。はたして政府が言うような「自律的で創造的な働き方」ができる人がどのくらいいるのかは疑問だ。
現行の裁量労働制についても本人の同意が必要であるが、先の労働政策研究・研修機構の自由記述欄ではこんな声も上がっている。
「誓約書にサインしなかった者に不利益人事と思われる事象が出ており、実質的に強制されている点も承伏しがたい」
もちろん人事関係者のなかには高プロ制度を歓迎する声もある。大手自動車関連メーカーの人事担当者は、こう語る。
「社員のなかには時間を気にしないで思う存分働きたいという人もいるのは事実。スキルアップしたい、キャリアを積みたい人にとっては残業規制で会社を閉め出されても外や自宅で仕事や勉強をしているはずです。会社としても技術開発に携わる専門職には労働時間に関係なくマイペースで働いてもらいたいという思いもあります」
時間を気にしないで思う存分働きたい、あるいは働かせたいという気持ちもわかる。だが、その思いと今回の「長時間労働の削減」という政府の立法趣旨とは明らかに異なる。裁量労働制の延長である高プロ制度が長時間労働の削減につながる、自由な働き方ができるという建て前が崩れた以上、国民を納得させる立法趣旨を政府が提示できない限り、法律を成立させるのは無謀というしかない。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)