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【随想】山口組元最高幹部が他界…司忍組長と共に罪に問われ、20年続いた闘争にも終止符

文=沖田臥竜/作家
【随想】山口組元最高幹部が他界…司忍組長と共に罪に問われ、20年続いた闘争にも終止符の画像1今月9日に亡くなった滝沢元総長

 5月9日、大阪高裁では、銃刀法違反(共同所持)に問われていた元六代目山口組顧問で芳菱会(現在は解散)・滝沢孝元総長の控訴審判決が言い渡される予定になっていた。だが、滝沢元総長はその日、大阪高裁へと姿を見せていない。理由は裁判に出廷できる健康状態ではないというものであった。そのため、判決は言い渡されず、延期されることになった。

 それだけに、関係者の間でも滝沢元総長の容態はかなり深刻なものではないかと思われていたのだが、同日午後7時30分頃、それが事実であったことが知らされた。

 享年80。2008年に引退するまでの長きにわたり、山口組の最高幹部を務めた元総長が他界した。同時に、1997年9月に配下の組員が拳銃を隠し持っていた罪により続けられていた裁判は、結末を見ないまま幕を下ろすことになった。

 滝沢元総長は、四代目山口組体制が発足すると同時に直参へと昇格を果たし、五代目体制発足時には若頭補佐に登用され、最高幹部の1人として執行部入りを果たした。

 静岡県浜松を本拠とする「國領屋下垂一家」を率いていたが、のちに組織名称を「芳菱会」と改称。芳菱会の「芳」の文字は、五代目山口組・渡辺芳則組長の一字を使用したもので、菱はいうまでもなく山口組の菱の代紋からきており、渡辺五代目組長直々に名付けた組織名であった。

 その五代目体制の最中の1997年8月、山口組に激震が走った。それまで若頭を務めていた宅見組初代・宅見勝組長が、中野会のヒットマンの放った銃弾に倒れたのだ。

 山口組内部で混乱が続くなか、翌月9月には、滝沢元総長にとって転機となる事件が起こる。滝沢元総長は六代目山口組・司忍組長(当時・五代目山口組若頭補佐)と共に宿泊していたホテルから出てきたところを職務質問されるのだが、その際、配下の組員が拳銃を所持していたため、同組員が現行犯逮捕される。この時点で、両組長に容疑がかかることはなかったが、11月には「配下組員の拳銃を持たせていた」とのことで共謀共同正犯に問われた。

 この容疑で司組長は翌年6月に逮捕・起訴され、2005年に実刑判決が確定、収監されることになる。一方の滝沢元総長は指名手配されるも2001年まで逃亡した後、逮捕・起訴される。滝沢元総長は一貫して無罪を主張し、一審、二審は無罪を獲得するも、最高裁では差し戻し命令が出ることになる。さらに、その後の裁判も最高裁で差し戻し命令が出るという異例の展開を見せ、2度目の差し戻し審が進行していた。

六代目体制発足の立役者の一人

 この間、2005年に六代目体制が発足すると、肩書は若頭補佐のままで舎弟になおり、顧問に就任することで執行部の一翼を担い続けた。そして、顧問に就任した翌年となる2009年に引退、芳菱会を解散させた。

 滝沢元総長を知る元組長は、こう語る。

「一言でいえば雄弁。銃刀法違反で大阪府警に逮捕された際には、取り調べにおいても弁護士を呼ぶなどし、徹底抗戦したようだ。六代目体制発足の立役者のひとりとも言われており、発足後はなんらかの新設されたポストに就くのではないかと噂されたことまであった。ただ、後藤忠政・元後藤組組長が山口組を除籍された2008年頃から、高山清司・六代目山口組若頭をはじめとした執行部と意見が異なり始めたのではないかと言われていた。それでも長きにわたり山口組に尽力したことは間違いない」

 引退された滝沢元総長を筆者がお見かけしたのは、たった一度。五代目山口組・渡辺組長のお通夜に、筆者が自身の親分のお付きで参列させていただいたときだった。お通夜には、すでに引退されていた岸本才三・元六代目山口組最高顧問も来られており、お二人の姿を見ながら、山口組の歴史を見ているような感慨深い心境になったことを今でも鮮明に覚えている。

 晩年は、引退してもなお続いていた、自身が無罪と確信を持つ裁判で、まさに闘争を続けていたのではないだろうか。

(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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