財務省の不祥事が相次ぎ、佐川宣寿前国税庁長官、福田淳一前事務次官が辞任した。麻生太郎財務相の責任問題に発展しているが、一向に辞める様子はない。それどころか、当の本人は「セクハラ罪はない」と開き直るなど、“麻生節”は全開だ。
野党やマスコミからここまで批判されても居直るのはどうしてなのか。ジャーナリストの田原総一朗氏はこれまで、テレビや雑誌連載などで何度も「安倍さんの盾になって政権を守ろうとしているのではないか。麻生さんが辞めれば次は安倍さんが責任追及される」と言っていた。しかし、現職の自民党参議院議員から話を聞く限り、麻生氏が大臣が辞めない理由は「安倍さんを守っている」という美しい話などではないようだ。
「麻生さんの本音は『安倍の女房のおかげで問題が大きくなって、こっちが責任取らされるのはおかしいだろ』ということ。内輪の人間は彼がそう言っているのを聞いている。要するに、ここで辞めるのはアホらしいという気持ち。人情論としてはそれも理解できるが、麻生さんの政治責任ははっきりしている」
理屈で考えればさらにわかりやすい。今辞めれば「引責辞任」で経歴にバツが増える。麻生氏は首相を務めていた2009年、衆院選で当時の民主党に破れ、自民党は1955年の結党以来初めて第一党ではなくなり下野した。ただでさえ、“自民党を下野させた首相”という、とてつもなく大きな不名誉をこの先も背負っていかなくてはならないのにである。
昨年7月、党内第2派閥に躍進した麻生派(志公会)だが、麻生氏頼みの色合いが強く、有力な派閥領袖の後継者は見当たらない。安倍政権後の「キングメーカー狙い」が囁かれ続けている。今のタイミングで辞任すれば、せっかく拡大した派閥の求心力にも影響するかもしれない。辞任すれば政治生命が終わってしまいかねないし、単純に損なのである。
「麻生さんは、一時は『安倍の次はオレだ』と本気で思っていた。さすがに今度の自民党総裁選には出てこないだろうけど、最近はいつ会っても機嫌がいい。今でも毎晩、腹筋と腕立て伏せを300回ずつ欠かさないというから、意気軒昂だ。居直り一直線だね」(同)
1月に行われた麻生派の新年会では、安倍政権を「一致結束してど真ん中で支える」(麻生氏)ことを確認したといわれる。その麻生派は「(安倍首相夫人の)昭恵さんのトバッチリで派閥が冷や飯を食うなんてとんでもない」と一致団結しているらしい。麻生派のなかでは現在、外務大臣の要職に就く河野太郎氏が脚光を浴びており、小泉純一郎元首相からも「あの男は大化けするかもしれない」との評価を得ている。
「麻生さんは河野を呼んで、次を狙うなら言動はよく考えてと注意したらしい。河野はかつての言動をかなり抑えているね。抑えたまま小さくまとまってそのまま進んでしまう危険性もあるが」(参院議員)
5月21日に発表された世論調査の内閣支持率を見ると、横ばいかやや回復傾向にある。安倍政権に厳しい朝日新聞でも前回調査の31%から36%へと5ポイントも回復している。
「安倍さん本人は出る気満々。支持率が10%割るとか、よほど落ち込まない限り、出るよ」(同)
麻生氏の失言に関係なく、安倍首相の3選もあり得るのか。
(文=横山渉/ジャーナリスト)