6月18日午前7時58分頃、朝の通勤時間帯の関西首都圏を大阪北部地震が襲った。地震の規模はマグニチュード(M)6.1だったが、震源の深さが13kmと浅かったため、大阪市北区、高槻市、枚方市、茨木市、箕面市で最大震度6弱を観測。倒れたブロック塀や家具などの下敷きとなり、19日時点で5人が死亡、376人が負傷した。
地震の発生で大阪府内、兵庫県内で停電が発生。上水道管の破裂により高槻市や大東市内の道路や住宅街で水が噴き出し、断水や水の混濁も発生した。JRは新幹線、在来線が運転見合わせ。大手私鉄も運転を見合わせるなど、ダイヤは夕方まで大幅に乱れた。航空路線は伊丹空港発着便を中心に38便が欠航。阪神高速道路も一部区間で通行止めとなったほか、日本将棋連盟が19日に予定していた関西将棋会館での名人戦順位戦C級1組1回戦「藤井聡太七段対森下卓九段」戦を含むすべての対局を延期した。
武蔵野学院大学の島村英紀特任教授(地震学)に、今回の地震について話を聞いた。
「都会を直接襲ったので、都会型の被害がけっこう出ました。特に交通機関の乱れで帰宅難民がずいぶん出ました。もっと大きな地震だったら、さらに被害が出たでしょう。M6.1と、関西で起きる直下型地震としては小さめでした。ただし、気象庁が大阪で地震観測を始めて80余年になりますが、大阪で震度6弱を観測したのは今回が初めてです。阪神大震災前から、関西は地震が少ないといわれてきましたが、結局、日本列島はどこでも直下型地震が襲ってくる可能性があるということです」(島村氏)
今回の地震を受け、政府の地震調査委員会は18日に臨時会合を開いたが、記者会見した平田直委員長は「今回の地震は(発生メカニズムが)非常に複雑で、どの断層に関連しているのかを言うのは難しい」と述べた。前出・島村氏がこう解説する。
「1596年に慶長伏見地震が起きていて、今回の震源に近かったといわれていますが、昔は地震計もなかったので、近くではあっても震源は正確にはわかりません。それに、M6クラスの地震だと、活断層が動いたとしても、その証拠が地表に表れないので、どの断層が動いたのか、活断層が要因であるかも含めてまったくわからないのです。ただし、中部日本全部がひずみ集中帯といえるので、太平洋プレートと南のフィリピン海プレートが押してきて、日本列島を乗せているプレートが歪んだりねじれたりするので、どこで起きてもまったく不思議はありません。あらゆるところで直下型地震が起きる可能性があって、そのひとつがたまたま今回は大阪で起きたということです」(同)
さらに余震が続くのか。また、熊本地震のように前震よりさらに大きな本震がくることはないのか。熊本地震では、前震より余震のほうが大きかったため、以後、気象庁は余震の発生確率の発表をやめてしまった。
島村氏は「今度も断層系がかなり複雑ですから、まだ知られていない断層があって、今回の地震と連鎖してほとんど同じ大きさの“双子地震”みたいな地震が起きる可能性があります」と語る。
南海トラフ巨大地震が発生したら国家滅亡の危機
今月初旬、日本土木学会が首都直下地震や南海トラフ巨大地震が発生した場合の長期的な経済被害を「1410兆円」と推測し、詳細な報告書を発表した。土木学会の委員を務めた関西大学の河田恵昭特任教授は「会社だと赤字で倒産するが、国の場合は滅亡する。南海トラフ巨大地震のような“国難災害”が起きると、国が成り立たなくなる」と警告する。
土木学会の大石久和会長も「これだけの経済被害が生じるとは予想もしておらず、驚きだ。今のまま巨大災害が起きたら、想像もつかないようなことになる。日本が東アジアにおける小国、最貧国のひとつにすらなりかねない。今は南海トラフ巨大地震も首都直下地震も、30年以内の発生確率が70~80%ほどになっていて、一刻の猶予も許されない時代に入っている」と強い危機感を明らかにした。今回の直下型地震が南海トラフ巨大地震の引き金となる可能性はないのか。
「可能性はあります。西日本で内陸直下型地震がいくつか起きると、続いて海溝型の南海トラフ地震が起きるというのが今までのパターンだからです。過去、日本では1944年の昭和東南海地震(M7.9)と1946年の昭和南海トラフ地震(M8.0)が起きていますが、1925年に北但馬地震(M6.8)、27年にも北丹後地震(M7.0)、43年には鳥取地震(M7.0)という内陸直下型地震が起きています。直近では2013年4月に淡路島でM6.3、最大震度6弱の地震があって、住宅2000棟が半壊。2015年2月にも徳島県南部でM5.0、最大震度5強の浅い内陸直下型地震が起きています。今回の大阪での地震も、今までのパターンと同じだと考えれば、南海トラフ地震に刻々と近づいているのは確かだと思います」(島村氏)
もうひとつ気になるのは、このところ関東地方で地震が相次いでいることだ。果たして関東大震災級の大地震が間近に迫っているのだろうか。
「日本の地下で海溝型地震が起きるのは、関東地方と静岡県清水市の2カ所だけです。直下型地震の危険がある上に、さらに海溝型地震の危険もあるのが関東首都圏なんです。あと、熊本県から中央構造線というのが伸びていて、長野県まではわかっているのですが、そこから先は堆積物が厚くて見えません。17日に群馬県南部で起きたM4.6、最大震度5弱の地震は、この見えない中央構造線の延長上にある可能性があります。
千葉県東方沖で起きている地震は、スロースリップ地震と呼ばれています。プレートの跳ね上がりが数秒で起きれば大地震ですが、数時間から数日以上かかって起きるのをスロースリップ地震と呼びます。このスロースリップ地震は地震計が発達するまで、つまり20年前まではあってもわからなかったのです。ところが、房総沖では5~6年に1回、スロースリップ地震が起きていることがわかりました。今まで大地震に結びついていないので、関東地方で大地震に結びつく可能性はないわけではありませんが、可能性はそんなに大きくはないと思います」(同)
政府の地震調査委員会が、今後30年以内に70%の確率で起きると予想しているのは首都直下地震だ。推定マグニチュードは7.0。ただし、首都直下=東京直下ではない。1都7県の南関東直下を指すが、過去の地震を見ると東京、神奈川、千葉、茨城の1都3県に集中している。
被害想定は、最悪の場合で建物全壊は61万棟、うち41万2000棟が火災で消失する。死者はおよそ2万3000人、けが人12万3000人、避難者は発生2週間で720万人に達すると想定されている。経済的損失は95兆3000億円で推計され、国の一般会計予算にほぼ匹敵する。
大阪と同じことは、いつか必ず東京でも起きる――。そう腹をくくったほうがよさそうだ。
(文=兜森衛)