同制度により、千代田区は年間で約3000億円を失っていると試算。港区も約2500億円前後が流出しているとされる。千代田区の職員はこう話す。
「同制度によって千代田区は多額の税収を都に収奪されてきました。そのため、千代田区はたびたび制度を見直すように訴えています。港区も同じように税収を奪われている立場ですが、制度の見直しには消極的です。たまに区議会が意見書を出すぐらいで、表立って反対していません。同じ都心部に位置する千代田区としては歯がゆい思いをしています」
軽い行政の負担
なぜ港区は強硬な反対姿勢を見せないのか。ある港区職員は言う。
「確かに、ふるさと納税や都区財政調整制度による税の流出は、港区にとっても大きな痛手です。しかし、千代田区の人口は6万人。港区は25万人。4倍もの差があり、住民税などの税収にも大きな開きがあります」
港区が“金持ち喧嘩せず”の姿勢を崩さない理由はほかにもある。それが、民間企業が率先して再開発事業を実施し、街を整備してくれることだ。
本来、公園や街路、駐輪場などの整備や街の緑化・美化は行政が担当する領域だ。しかし、都市開発事業者は不動産価格を高めることを狙って、公開空地と呼ばれる公共スペースを自主的に開設している。
公開空地は誰でも利用できるスペースなので、これを地域住民などが“公園”として利用する。しかも、公開空地やその一帯は都市開発事業者が管理するので、行政が清掃や緑化といったコストをかける必要がない。税金を投じずに街を整備できるので、行政にとっては願ったり叶ったりなのだ。
同様の話は、小中学校といった学校建設にも及ぶ。港区の人口は、いまだ増加傾向にある。港区は1996年に人口が15万人を下回ったが、それ以降は都心回帰によって人口が増加。他区からの人口流入も顕著だが、最近では港区で生まれる子供の数も増えている。港区の合計特殊出生率は2014年に1.39、2015年に1.44を記録。これは、東京23区において1位という数字だ。
港区では、第2子以降の保育料を無料になるといった子育て支援策も実施し、それが出生率の向上に寄与している面はある。しかし、それよりも新たに流入してくる世帯が富裕層という点が大きい。通常、若年世帯が流入すると同時並行的に保育所不足による待機児童問題、小中学校の不足が発生する。江東区などは小中学校建設が追いつかず、タワマン規制を強める方針を打ち出した。
しかし、港区は保育所不足・小中学校不足もそれほど深刻ではない。その理由は、港区の富裕層は共働きによるものではなく、父親が企業役員などをしている“片稼ぎ富裕層”も多いからだ。また、“お受験”で私立小学校を目指す家庭が多いので、行政が公立小中学校の建設に多くリソースを割く必要がない。要するに、民間によるまちづくりが積極的に進められているので、結果的に行政の負担が軽くなっているのだ。
今般、年収300万円以下の世帯は4割を超えた。その一方、金融資産1億円超の富裕層の割合も増加している。“片稼ぎ”の富裕層が増加している自治体は、日本国内を見渡しても港区ぐらいしか見当たらない。
富裕層と貧困層の格差拡大が進むなか、港区は“金持ちの楽園化”し、最強の勝ち組になりつつある。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)