企業のAI導入で東京一極集中が加速する恐れ
――近い将来、リーマン・ショックのような世界的な金融危機が起きる可能性はあるのでしょうか。
中原 アメリカ経済は一見好調ですが、そう長くは続かないでしょう。ヨーロッパも同様です。もちろん、リーマン・ショックのようなことは起こりません。リーマン・ショックでは、アメリカのローン全体の7割を占める住宅ローンが「焦げ付くかもしれない」ということでパニックになりました。今はカードローンや自動車ローン、学資ローンなどは3割で、連邦政府が保証する学資ローンを除けば民間のローンは2割しかありません。そのため、仮に焦げ付いてもインパクトは弱いと思っています。せいぜい、不況になるぐらいでしょう。
――2020年以降を見ていくと、日本はどうなるのでしょうか。
中原 日本を激変させるような2つの大きな波がやってくると思います。ひとつはすでに地方を襲っていて、今後は首都圏に波及していきます。それが少子高齢化です。もうひとつが、AI(人工知能)の普及による影響です。私は、昨年がAI元年だったと思っています。
――「AI元年は昨年だ」という理由はなんですか。
中原 AIを導入する大企業が、昨年あたりから目立ち始めたからです。大企業が本気でAIの実用化を考えるようになったのが昨年といえると思います。目的としては、まず生産性の向上でしょう。「利益率を高めるためにはAIの導入が有効だ」ととらえる企業が増えてきたのではないでしょうか。
――これまで人がやっていた単純作業をAIが代替するようになったということでしょうか。
中原 すべてAIに任せる仕事と、コールセンターのように人とAIが一緒になって顧客満足度を高めるような仕事の2つに大別されると思います。顧客満足度を高めるためには、AIだけでなく人と組むことが大切です。それにより、顧客を待たせることがなくなります。
たとえば、コールセンターでは通話の音声をAIが文字化して、模範的な回答を即座に示してくれる。人は、それを読むだけです。今までは人間がマニュアルを調べながら対応していたので、時間がかかっていました。ただ、それはコールセンターの人員削減にもつながります。コールセンターは主に沖縄や北海道などの地方にあるため、地方の雇用を減らしてしまうことにつながります。そのため、地方から東京に出てきて仕事を探さざるを得なくなります。
――つまり、企業がAIを導入することで東京一極集中が加速する恐れがあるということですね。
中原 そうなんです。AIが地方の雇用を奪い、東京一極集中を加速させる。それは、コールセンターだけでなく工場なども同様です。
『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』 アメリカ人の借金の総額がすでにリーマン・ショック時を超え、過去最高水準を更新するなど、いま、世界では「借金バブル」が暴発寸前となっていることをご存じだろうか。翻って日本では、大企業の淘汰・再編、増税による可処分所得の減少、生産性向上に伴う失業者の増加など、日常生活を脅かす様々なリスクが訪れようとしている。まさに「国難」ともいえるこの状況に、私たちはどう立ち向かえばいいのか。いち早く「サブプライム崩壊とその後の株価暴落」を予見していた経済アナリストが、金融危機「再来」の可能性について警鐘を鳴らすとともに、大きく様変わりする日本の近未来を描く――。