本連載前回記事で、水道民営化の問題点についてお伝えしました。水道の民営化を含む「水道法改正案」は通常国会で衆議院で可決されたものの成立せず、秋の臨時国会で再び審議される見通しです。
民営化によって民間事業者のノウハウで効率的な運営が行われることになりますが、そこには光と影が存在します。その象徴的なケースは、約30年前に中曽根康弘内閣で行われた「国鉄分割民営化」でしょう。
赤字に陥っていた当時の国鉄を立て直すために、中曽根内閣は民間の競争原理と活力を取り入れる「民営化」に踏み切りました。その結果、新幹線が日本中を走り、サービスも向上するなど、その成果は確かに出ています。
東海道新幹線を持つJR東海などは、総事業費9兆円をかけてリニア中央新幹線を建設するほどの企業になっています。また、JR東日本、JR西日本、JR九州は2018年3月期の当期利益が過去最高を更新しています。JR東日本などは、今や売上高が3兆円に迫る巨大企業になっているほどです。
こうした華やかな姿は、まさに民営化の光の部分であり、成功した例でもあります。しかし、一方で、民営化には影の部分もあります。JR北海道のように、民営化によって赤字に拍車がかかり、衰退の一途をたどっている企業もあるのです。
東海道新幹線の東京~新大阪間が開通した約50年前、JR北海道には約4000kmの鉄道網がありました。しかし、利用客の減少と民営化で不採算路線が次々と廃止され、現在は2500km以下まで縮小しています。しかも、自力では立ちゆかず、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が100%の株式を持つ、実質的な国営企業となっています。さらに、毎年400億円を超える営業赤字を垂れ流しており、2017年度の赤字は過去最高の416億円となりました。
そのため、資金ショートで列車が運行できなくなるかもしれないという危機に直面し、国土交通省は一段と厳しい自助努力をすることを条件に、2019年度と2020年度の2年間で合計400億円超の血税を注ぎ込むことを決めました。
ただ、将来の展望がないのでサービスは低下の一途をたどり、補修が必要な路線が100カ所もあるにもかかわらず放置されているため、事故が多発しています。
民営化で料金は上がるのにサービスは下がる?
JR東日本やJR西日本などの儲かる鉄道会社が生まれた半面、JR北海道やJR四国のように赤字を垂れ流す鉄道会社も出てきています。しかも、行政の悪いところほど人口減で利用者が減っていたり、サービスの低下で鉄道離れが起きたりする悪循環に陥っています。
そんななかで特徴的なのは、外国資本の参入です。現在、儲かっているJR東日本の株主の約3分の1は外国法人となっています。つまり、民営化で収益を上げているJR東日本などの企業には外国資本がどんどん入っているということです。一方で、赤字を垂れ流すJR北海道のような企業は実質的に国営のままで、私たちが税金でカバーする構造になっています。しかも、鉄道という輸送インフラが劣化している北海道では道内の経済自体が地盤沈下しており、不況から抜け出せずにいます。
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