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江川紹子の「事件ウオッチ」第110回

【翁長雄志・沖縄県知事】が本土に問い続けたことーー私たちに残された宿題とは

文=江川紹子/ジャーナリスト
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【翁長雄志・沖縄県知事】が本土に問い続けたことーー私たちに残された宿題とはの画像1沖縄の基地負担軽減を訴え、最期まで戦い続けた翁長知事(沖縄県HPより)

 沖縄県の翁長雄志知事が亡くなって10日余りたった。膵臓がんを公表したのが今年5月。それから3カ月もたたないうちに死去のニュースを聞くとは思わなかった。

なぜ基地を沖縄県外へ移設できないのか

「イデオロギーよりアイデンティティー」を掲げた翁長知事は、沖縄県外の者にも根気強く「沖縄の心」を伝え、時に心に刺さるメッセージを発するなど、強い発信力を持った知事だった。

 今年6月23日沖縄慰霊の日の式典での平和宣言、7月27日に行われた名護市辺野古の新基地建設について前知事の埋め立て承認の撤回を表明した記者会見など、翁長氏が死の間際に残したいくつかのメッセージは、今もインターネット上で見ることができる。

 見るからに痩せて、声も出しづらそうに感じられたが、「沖縄を日本とアジアの架け橋として発展させたい」「辺野古に新基地はつくらせない」という意思は、最後まで揺らぐことなく、むしろ研ぎ澄まされていったように見えた。

 県知事となって以来、翁長氏は沖縄県外の国民に対し、こう訴え続けてきた。

「沖縄の米軍基地問題は、日本全体の安全保障の問題であり、国民全体で負担すべきものであります。国民の皆様には、沖縄の基地の現状や日米安全保障体制の在り方について、真摯に考えていただきたいと願っています」(平和宣言より)

 その主張をまとめれば、以下のようになろう。

 日米安保体制の重要性は理解する。しかし、国土のわずか0.6%の面積である沖縄県に、国内の米軍専用施設総面積の70.3%が集中している状況は、あまりにも過重な負担である。日本全体で日本の安全を守る覚悟をもって、平等に基地を負担するなら沖縄も応分の負担を引き受ける。しかし、米軍基地のほとんどを沖縄県に押し付け、その状態を今後も永続させようとする安全保障政策は受け入れられない。

 過激でもなんでもない。翁長氏に対しては、訃報が流れた時でさえ、「パヨク」「売国奴」といった罵倒の言葉がネット上で飛び交ったが、同氏の主張は、沖縄のために働く保守政治家として、実にまっとうなものだった。

 それが受け入れられなかったのは、アメリカや米軍の圧力というより、歴代日本政府の方針ゆえだった。普天間基地の代替施設は沖縄県内で、という方針は、同基地返還の日米合意がなされた橋本龍太郎首相の時から続いており、政権交代しても変わらなかった。

 民主党の鳩山由紀夫代表は「最低でも県外」を約束したが、首相になって頓挫。野田政権で防衛相となった森本敏氏は、2012年12月の退任記者会見で、米海兵隊の機能を完全に果たせれば、代替地は沖縄である必要は必ずしもないとしながら、それを政治的に許容できるところがほかにないと説明。こう述べている。

「簡単に言ってしまうと、『軍事的には沖縄でなくても良いが、政治的に考えると、沖縄がつまり最適の地域である』と、そういう結論になると思います」

 米クリントン政権で国防大臣を務め、橋本政権や当時の太田昌秀沖縄県知事と普天間基地移転に関する交渉をしたウィリアム・ペリー氏も、昨年11月に放送されたNHKの『ETV特集 ペリーの告白~元米国防長官・沖縄への旅』の中で繰り返し、「代替施設は沖縄である必要はなかった」と述べている。

「移転先を決めるのは、日本政府の選択でした。アメリカではありません」
「我々(米側)の視点から言えば、日本のどこであってもよかったのです」
「我々(日米)は他の場所も探しました。しかし、日本側は沖縄県外の移設にとても消極的だったのです」

 本土に代替地を探そうとすれば、大がかりな反対運動に発展して、なかなか事態が進まない。すでに基地が存在する沖縄で対応してもらったほうが実現は容易だろう――こうした政治的な判断を支えているのは、私を含めた本土の人たちだ。

「沖縄の視線」が向けられた先は

 昨年4月にNHKが沖縄の日本復帰45年に際して行った「沖縄米軍基地をめぐる意識」の世論調査では、「米軍普天間基地の名護市辺野古への移設」について、「反対」は沖縄では63%に上ったが、全国では37%。「賛成」は沖縄27%に対し、全国では47%と多数を占めた。「日本にとって、沖縄に米軍基地があること」についても、沖縄では「必要だ」「やむをえない」とする容認派が44%、「必要でない」「かえって危険だ」とする否定派は48%だったのに対し、全国では容認派が71%に達し、否定派は20%。全国と沖縄では明らかな違いがあった。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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