翁長知事は、著書『戦う民意』(2015年12月、角川書店)の中で、こう書いている。
「尖閣諸島をめぐるいざこざは、なんとしても避けてほしいというのが沖縄県民の共通した思いです。
地上戦の経験がある沖縄は、中国と争えばこの身が危険にさらされることは皮膚感覚で分かります。本土では保守系政党の中でも尖閣問題について強硬論が語られますが、身の危険を冒す覚悟のない人たちが尖閣から遠いところで強気になって発言していることに私は空恐ろしい思いがします」
リアルな戦争観を持っていた翁長知事は、本土から展開される威勢のいい強硬論に、どれだけ失望感を抱いていただろうか。
しかも昨今、沖縄をめぐっては、政治的な意見の違いが戦わされるのみならず、公然とさまざまなデマも飛び交う。
沖縄が再び切り捨てられる、という懸念も常にあったようだ。最後の記者会見でも、こう言っている。
「(安倍首相は)日本を取り戻す、と言っていましたけども、その中に沖縄が入っているのか、答えていただけませんでした」
その記者会見で翁長知事は、「政治はいつもダイナミックに動いている」と述べ、北朝鮮をめぐる国際情勢の動きを、次のように語っている。
「いまの北朝鮮問題、北東アジア、あのダイナミックにアメリカのトランプと金正恩が握手をして抱き合うぐらいの気持ちで、あの緊張緩和をしている。
実際上、実るか実らないかは別として、ああいう大胆な動きの中で米韓合同演習を中止し、北朝鮮もどういう施設かわかりませんが爆破して、一定程度その気持ちに応える。中国は中国で、ロシアはロシアで、その後ろから、この北東アジアの平和に対して、(その)行く末に対してしっかりと見定めている中、おかしくないでしょうかね、皆さん。20年以上前に合意した新辺野古基地。あのときの抑止力というのは北朝鮮であり、中国なんですよね」
「(アジアは大きく変わりつつあり、米国や中国などの大国とうまく距離を測りながら外交をやっている中で)日本だけが寄り添うようにして米国とやっている。それに関して、司法も行政もなかなか日本国民、今の現状から言うと厳しいものがあるかもしれませんが、そういう動きは必ず日本を揺り動かす」
アジアで起きている変化が、きっと日本国民を動かし、沖縄をめぐる情勢も変わるに違いない。そうしなければならない。くれぐれも、国際社会の変化から、日本は取り残されないでほしい。そんな思いが言葉の端々ににじんでいた。
私たちに残された宿題だと思う。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)