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工藤会トップに死刑判決は「永山基準」に照らしても厳しすぎる…宮崎学が斬る“国策捜査”

構成=編集部
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福岡地裁本庁(「Wikipedia」より)

 8月24日、福岡地裁は五代目工藤會の野村悟総裁に求刑通りの死刑、田上文雄会長に無期懲役の判決を言い渡した。足立勉裁判長は、審理された4つの事件について野村総裁らの関与を認定、「組織的に市民を襲撃した犯行の動機、経緯に酌むべき余地は皆無」と判じた。判決を受けて、野村総裁と田上会長は翌25日に控訴している。

 指定暴力団のトップに死刑判決が下されたのは、史上初の事態だ。以前から工藤會関係者の冤罪事件などを取材し、四代目工藤會の溝下秀男総裁(故人)との共著もある、作家の宮崎学さんに話を聞いた。

警察庁の意向で既定路線だった死刑判決

――史上初の指定暴力団トップに対する死刑判決が出ました。今回審理されたのは、元漁協組合長射殺(1998年)、元福岡県警の警部銃撃(2012年)、看護師刺傷(2013年)、歯科医師刺傷(2014年)の4つの事件です。いずれの事件も野村総裁と田上会長の事件への関与を示す直接証拠はなく、死刑判決には疑問の声もあるようです。判決をどう見ていますか?

宮崎学さん(以下、宮崎) 私としては想定内の判決でしたが、弁護団や工藤會関係者はショックを受けていると聞いています。しかし、この裁判はもともと「国策捜査」であり、最高幹部の死刑が前提だったことは明らかです。本来はすべての捜査が「国策」といえますが、今回の裁判は警察庁と検察庁、そして裁判所が一体となって工藤會という北九州の組織を「最凶」と断定し、トップを「死刑」にすることに血道をあげてきました。

 以前から指摘してきた通り、野村総裁の死刑判決は福岡県警ではなく警察庁の意向であり、最初から決まっていたことです。

 2015年1月に就任した金高雅仁警察庁長官が、その年の6月の会見で「組織(=工藤會)のトップを死刑や無期懲役にもっていき、二度と組に戻れない状態をつくり、恐怖による内部支配を崩していこうという戦略。徹底した捜査を遂げるということで臨んでいる」と宣言しました。このときに税務関係の逮捕にも言及していて、実際にその通りになりました。野村総裁は「上納金」の脱税でも有罪判決を受けています。

 弁護団は、これまでも多くの事件で無罪を勝ち取ってきた精鋭集団であり、今回も最高の弁護をしたと思いますが、弁護団の問題ではありません。はじめから「死刑」と決められていたのですから。

元警察官銃撃で警察庁幹部が激怒か

――なぜ福岡県警ではなく、警察庁主導の捜査だったのでしょう?

宮崎 理由はいくつか考えられますが、今回審理されている、2012年の工藤會関係者による元警察官銃撃事件が警察庁幹部を激怒させたと聞いています。警察の「虎の尾」を踏んだということですね。

 この事件について、田上会長は法廷で「退職していても元警察官を襲撃すれば、警察は工藤会を一丸となってたたくと思います。そういうことがわかっていてするほど、私は愚かでもないし、バカでもありません」と話したことが報じられています。これは一定の説得力があると思いますが、結果として裁判所はスルーしています。

 また、警察庁が「福岡県警は『暴力団』を取り締まれない」と見限ったこともあると思います。福岡県内には5団体もの指定暴力団組織があります。東京都内は4団体、大阪は2団体ですから、どれだけ多いかわかります。福岡県警は、それらを放置するどころか、癒着していたのではないでしょうか?

 今回の裁判で審理された元警察官の銃撃事件も、当初はむしろ被害者と工藤會の「ただならぬ関係」が指摘されていたほどです。ただし、これはどこの警察にもあることです。2012年には、工藤會のほか別の福岡県内の組織からもカネを受け取っていた疑惑のある警察官が逮捕されていますし、2020年3月には、警視庁のマル暴警部補とヤクザの関係を「FRIDAY」(講談社)が報じています。

 また、今年の9月10日には、暴力団員に捜査情報を漏らしていたとして、神奈川県警察本部が警部補を懲戒免職の処分にしたことも明らかになっています。報道によると、この神奈川県警の元警部補は「暴力団関係者を協力者にしたかった」と話しており、地方公務員法違反の疑いで捜査されているようですが、このほか都内のクラブで総額数十万円の接待を受けており、贈賄の疑いもあるようです。情報を漏洩したヤクザとは「先輩の元警察官からの紹介で知り合った」と認めているそうで、明らかに組織的な問題です。この元警部補の名前はなぜか報道されていませんが、だいたいどの警察も同様と考えていいでしょう。

 また、背景にはアメリカ政府の圧力もありますね。一貫してマフィア撲滅に力を入れてきたアメリカ政府は、工藤會や山口組など日本のヤクザへの制裁も続けています。もっとも、アメリカの狙いはマフィアの潤沢な資金の没収ですが、これに対して日本は1992年の暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)の施行以来、30年近くを経ても暴力団を壊滅させていません。アメリカからすれば、「どうなっているんだ?」ということでしょう。

 とはいえ、欧米もマフィアの対策は講じながら殲滅できてはいないのですが、日本はアメリカの要請に応えなくてはならず、工藤會のような「山口組より規模は小さくても存在感のある組織」をターゲットにしたのだと思います。

「永山基準」に照らしても死刑は厳しすぎる

――審理された4つの事件のうち、元漁協組合長の事件は以前に裁判が終わっていますが、改めての捜査となりました。

宮崎 はい。普段は何か事件があれば「また工藤會か!」というわりには、ずいぶん古い事件を出してきたと、弁護団も驚いたと聞いています。20年以上も前の事件ですし、この件で田上会長(逮捕の2002年当時は工藤會傘下・田中組若頭)は逮捕されたのに不起訴になっています。また、裁判で無期懲役を求刑された組員のうち、1人は無罪が確定しています。

 一審の有罪率が平均99%を超える日本で、しかも工藤會の関係者であっても不起訴や無罪とするしかなかった裁判をやり直すというのは、異例中の異例です。

 しかし、今回、裁判所は強引に死刑を導きました。もっと問題なのは、メディアは批判するどころか「画期的」「よくぞ工藤會をやっつけた」と大歓迎したことです。たとえば、西日本新聞は(不起訴となっていた田上会長を再び逮捕、起訴するという)「『禁じ手』も使った。異例の捜査を重ねた壊滅作戦が、トップの極刑判決を導いた」と評価しました。

 多くの人が「禁じ手」をよしとしているんです。法律の専門家からは、古い事件を審理したり、直接証拠がないのに死刑を言い渡したりすることについて、疑問の声も出ているようです。しかし、議論にならないのは、「暴力団をかばうのか」と叩かれたくないからでしょう。

――そんな古い事件まで引っぱり出したのは、なぜでしょうか?

宮崎 死亡した被害者がいないと、死刑を求刑できないからです。ただし、4つの事件で亡くなっているのは元漁協組合長だけですから、これは、いわゆる「永山基準」に照らしても、死刑という結論は厳しすぎますね。

 永山基準とは、1968年に4人を射殺した永山則夫元死刑囚(事件当時19歳、1997年に死刑執行)の裁判で最高裁が示した死刑の適用基準です。現在も死刑判決の基準とされていますが、これには具体的に「○人を殺せば死刑」とは書かれていません。動機や殺害の方法、被害者の数など9項目を総合的に考慮することが求められています。

 過去の事件では、亡くなった被害者が2人だと死刑の可能性が大きくなり、3人以上だとほぼ間違いなく死刑という傾向にあります。これらを見ても、やはり被害者が1人で死刑というのは、厳しい判決であるといわざるを得ません。

(構成=編集部)

※後編へ続く

●宮崎学(みやざき・まなぶ)
1945年京都生まれ。ヤクザの息子として生まれ、学生運動に身を投じた半生を綴った『突破者―戦後史の陰を駆け抜けた五十年』(1996年)のほかヤクザや社会の課題をテーマに執筆を続ける。最新刊は『突破者の遺言』(ケイアンドケイプレス、2021年)

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