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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第35回

大相撲の八百長は無視!?“危ない案件”は取材しない、大手新聞の似非ジャーナリズム

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大相撲の八百長は無視!?“危ない案件”は取材しない、大手新聞の似非ジャーナリズムの画像1「Thinkstock」より
【第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

●匿名の手紙を送ってきた人物

 深井宣光はコーヒーを一口すすり、再び手紙に目を落とした。
 《しかし、それからしばらくすると、先輩は永田町や官邸であまり見かけなくなりました。噂では、郵政省、厚労省など、政治部が担当する官庁詰めに左遷された、という話でした。いずれ民社党キャップ、自由党キャップ、官邸キャップになる記者だと聞いていたので、奇異な感じを持ったことをよく覚えています》

 《私のほうは、政治部記者の仕事に慣れるに従い、嬉々として永田町や霞が関を駆け巡る日々を過ごすようになり、周囲のことがあまり目に入らなくなりました。それからしばらくして、海外支局勤務となり、数年間、日本を離れることになりました。そんなこともあり、先輩のことは忘却の彼方に消えかかっていました》

 《私は4年前に海外勤務から日本に戻り、今も某大手新聞政治部に在籍しています。『それなら、社名と役職くらい明かせよ』とおっしゃるかも知れませんが、今はそれすら明かすわけにはいかないのです。それが重ね重ねの無礼であることは承知しています。しかし、苦渋の胸中をお察し頂き、ご容赦ください》

 《つい最近、私は先輩が東京メトロの霞が関駅で下車し、日比谷公園方面に歩いて行く姿を目撃しました。そして、先輩のような記者が残って居れば新聞業界がこんな惨憺たる状況にはならなかったろうと思ったのです》

 《以前、風の便りに、深井先輩がジャナ研にいる、ということは聞いていました。しかし、なぜ、そこにいるのか、どんな仕事をしているのか、不覚にも知りませんでした。失礼とは思いましたが、その経緯や現在の仕事について調べさせて頂きました。先輩はお怒りになるかもしれませんが、なぜ、こんな手紙を差し上げることにしたかという理由と密接に関係しますので、お叱りを覚悟の上で、敢えて私の調べたことを書かせて頂きます》

 《私が総理番だった頃、周囲で深井先輩が『政治部の本流を歩み、政治部長、編集局長になる記者だ』と言われていたのは覚えています。もちろん、先輩がそういうコースを目指していたと言うつもりはありません。しかし、山田商事の特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞されてしばらくしてから、風向きが変わったのです。その理由は政治記者というのは、運動部の相撲担当記者と似たところがあるからです》

 《相撲担当記者が大相撲で八百長が行われていると思っても、取材しないのが鉄則です。社会部や週刊誌に任せておけばいい、という考え方です。このことは、野球とばく事件の捜査の過程で、携帯電話のメールを使った八百長が発覚、大騒ぎになった事件を見れば一目瞭然です。大騒ぎになって初めて相撲担当記者が記事を書き始め、『ずっと昔から八百長はあった』などとしたり顔をする、それと政治記者も同じなのです》

 《山田商事の特別背任事件は、与党の自由党政調会長の鶴岡荘蔵の資金源とされていた山田商事の社長が、暴力団につながる人物と二人三脚で不動産投資に走り、巨額の資金が暴力団に流れ、闇に消えた事件でした。暴力団に流れた資金の一部が自由党にも流れ、政治スキャンダルになり、鶴岡が政調会長を辞任しました》

 《こうした事件については、情報が入ってきても政治部記者は見て見ぬふりをするのです。しかし、先輩は取材して記事にしてしまったわけです。その結果、政治記者からはもちろん、政治家たちからも白い目で見られるようになったのです》

 《そうなると、政治部の主流では使えなくなるのが常識で、実際、大都は深井先輩をそのように処遇したのです。先輩は政治部の担当する郵政省、厚生省、労働省などの官庁詰めの記者という政治部の傍流部署に排除されることになり、デスクにもならず、ほとんど記事を掲載する紙面を与えられない編集委員として飼い殺しにされ、57歳になると、ジャナ研首席研究員として出向させられたのです》

 《そして、定年後は大都の嘱託として年俸800万円で再雇用され、今も首席研究員の肩書でジャナ研に在籍しているのです。仕事は年1回か2回、機関誌にコラムを書くことだけだそうですね。新聞業界以外で定年を迎えた同世代のサラリーマンからすれば、垂涎の的といえるでしょうが、それでいいのでしょうか》

BusinessJournal編集部

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