秋篠宮家の長女・眞子さまと小室圭さんのご結婚に際し、 ジャーナリストの篠原常一郎氏が圭さんの母・佳代さんが遺族年金と傷病手当金を不正受給した詐欺の疑いがあるとして東京地検に刑事告発したが、同告発状が地検から返戻された。篠原氏は12日、自身のYouTubeチャンネルを更新し、報告した。
違法行為があるのなら問題だが、今回の告発の進め方は法律的に適切だったのだろうか。告発状に関する一連の情報を整理するとともに、専門家の見解を聞いた。
告発状には犯罪構成要件に該当する具体的な事実なし
篠原氏は動画で告発状が返戻された理由として、地検の文書内容を以下のように読み上げている。
「告発は刑罰法規に該当する犯罪事実を捜査機関に申告して犯人の処罰を求めるものですから、犯罪構成要件に該当する具体的事実を具体的な証拠に基づいて特定してもらう必要があります。しかしながら前記書面では犯罪構成要件に関する具体的事実が記載されておらず、具体的な証拠に基づいた記載もなく、告発事実が十分に特定されているとは言えません」
そのうえで篠原氏は「不受理ではないんです」「もう一度頑張ってくれということなんで、私は前向きに受け取って、報道資料以外もありますので、これは出していこうと思う」と語った。
明確な事実の提示なく個人を刑事告訴することは妥当なのか
篠原氏が述べているように、今回、返戻された告発状は、遺族年金の不正受給疑惑と傷病手当金の不正受給疑惑に関する報道などをもとにして書かれたようだ。告発の元となった報道とはどのようなものか。例えば、NEWSポストセブン(小学館)が8日に公開した記事『小室佳代さん「詐欺罪」で刑事告発 2つの不正受給疑惑は最終局面へ』では、以下のように報じられている。項目ごとに部分引用する。
〇遺族年金の不正受給疑惑
「佳代さんはAさんと婚約していました。当時、彼に送ったメールの中で、“夫の遺族年金を受け取っている間は、Aさんと事実婚状態であることは秘密にしてほしい”といった主旨の内容があったことが報じられています。夫との死別後に別の男性と生計を共にするようになれば、遺族年金の受給対象から外れます。しかし佳代さんは、Aさんから援助を受けながら遺族年金も受け取るべく、事実婚であることを隠し通そうと、Aさんに口止めを促すメールを送っていたというのです。さらに、Aさんとは別の時期に、彫金師の男性と同棲しており、それが内縁関係に当たるのではないか、であれば、その期間もまた遺族年金の不正受給に当たるのではないか、と告発されています」(編集部注:記事中、皇室記者の談話として記載)
〇傷病手当金の不正受給疑惑
「もう一つは、傷病手当金の不正受給疑惑だ。佳代さんは老舗洋菓子店の正社員として働いていた2018年頃、“適応障害”を理由に、勤務を休んでいた時期がある。
(中略)
ここまでは労働者の権利だが、問題は、傷病手当を受けながら、他の店で働き報酬を得ていた疑惑があることだ。報道によれば、知人が経営する長野・軽井沢のレストランで住み込みで働いていたとされる。軽井沢は夏がシーズンで、夏が終わると自宅に戻っていたようだが、また翌夏には戻ってきて働いていたという。仕事はバックヤードが中心だったが、ホールに出ていたこともあるとの証言も報じられた」
以上、2点の違法行為の可能性を挙げて、詐欺罪が構成されるというのが告発状の趣旨のようだ。篠原氏自身が一連の疑惑の取材をし、直接関係者に証言を取っていたのならまだしも、第三者があらためて立証するのは極めてハードルが高いように思われる。新聞社元司法担当記者は話す。
「遺族年金の不正受給疑惑の違法性を立証するのであれば、最低限、佳代さんが事実婚を隠すために口止めを依頼したメールの原文といった電子記録は必須でしょう。
傷病手当金の不正受給疑惑も、まず『疑惑の期間中、傷病手当を継続的に受給していたことを示す勤務先の証言か書類』は絶対に必要で、加えて『佳代さんの軽井沢のレストランでの勤務実態と賃金支払いの有無』を示す証拠も必須になるのではないでしょうか。
いずれにしても特定の個人を刑事告発することは簡単なことではありません。なんの物証もなく『怪しい』『噂がある』『憶測記事がある』というだけで捜査機関を動かし、その捜査のために特定の個人を拘留したり、家宅捜索したり、あまつさえ罰したりできてしまうのなら、スターリン時代の旧ソ連のような密告社会と変わりないでしょう」
明確な事実や証言の提示がなく、各社報道と伝聞をもとにした告発状を提出することに法律的な正当性はあったのか。また、仮に篠原氏が希望するように、“捜査機関が告発状を受理して実質的な捜査を行う状況“にするには、最低限どのような事実関係が立証されていなければならないのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士に解説してもらった。
山岸弁護士の解説
まず、「告発」について、正確に言うならば、捜査機関が「告発状を受理しない」ということはできません。
東京地検において、提出された告訴状の問題点(事実が特定されていないなどなど)を丁寧に指摘し、結果、篠原氏が自発的に「告発状の提出を取りやめる」よう仕向けたというのが正しい理解となります。
篠原氏としては、ここでごり押しして告発状を受理させることもまったく不可能ではなかったのですが、「ろくな証拠もなく、確証もなく告発した」となると、(故意による場合ですが)虚偽告訴罪(刑法172条)となるリスクもあるため(おそらくこの点も指摘されたのでしょう)、結局は、”告発状を持ち帰った”ということになったわけです。
私、依頼受けて刑事告訴をしたりしますが、いきなり「捜査機関に告訴状(告発状)を持ち込み、受理を要求する」なんてことは絶対にしません。
まずは、「こういう犯罪についての告訴を検討している」とアポをとり、「告訴状(案)」と「現時点で有している証拠」を持参し、「告訴の相談」をすることから始まります。
ここで担当者と一定のリレーションをとりつつ、担当者が「検察官連絡(起訴をする検察官に「今、こういう告訴の相談がきているのですが、どういう事実、どういう証拠が必要でしょうか?」ということを質問し、告訴状受理までの段取りをとることです)」を繰り返す中で「必要な事実や証拠」を追完するなどし、その後、「告訴状」の体裁や文言を”検察官仕様”に整え、最終的に受理されるというのが、告訴状受理の”お作法”です。
いきなり、「犯罪がある、この告訴状(告発状)を受理してくれ」などと力むのは、素人がやりそうなことです。
さて、今回の件ですが、「詐欺罪」の成立には、当たり前ですが「人をだます」という「故意」が必要です。
しかし、人の頭の中身を覗くことはできませんので、「人をだます」という動作があったのかどうかが必要となります。
具体的には、遺族年金や傷病手当の支給機関(行政機関)からの現況報告の質問などに対し、「内縁の夫はいません」、「働いていません」といった回答を積極的に提出していたことが必要です。
まぁ、そういったものがない限り、そもそも詐欺罪が成立しないかもしれませんし、詐欺罪での告発受理もムリでしょう。