本年から国連「家族農業の10年」が始まった。農林水産省のホームページには次のように記載されている。
「国際連合は、2017年の国連総会において、2019年~2028年を国連『家族農業の10年』として定め、加盟国及び関係機関等に対し、食料安全保障確保と貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たしている家族農業に係る施策の推進・知見の共有等を求めています」
いよいよ国連加盟国による全世界の家族農業を育成・発展させる取り組みが始まったのである。国連が農業問題について10年間というタームで加盟国に対して取り組みを求めたのは、国連史上初めて。そこには、国連も見過ごすことができなくなった食糧不足への危機感がある。
2050年には世界人口が現在の76億人から98億人に増加するが、その食糧需要に対応するためには、同年の農業生産を2006年の水準より60%以上増加させる必要がある。しかし、農地の拡大余地はほとんどないばかりか、土地不足と淡水資源の枯渇は今後いっそう深刻化するとFAO(国連食糧農業機関)は予想している。
これに対して国連は「家族農業の10年」を通じて、自給的な農業生産に終始している発展途上国の家族農業を支援して、商業的な農業生産に移行させ、将来の予想される食糧危機に備えようとしている。
日本、食糧を確保することが困難な国に
このような危機意識は、国連だけのものではない。「世界でもっとも影響力のある思想家の一人」とされていた、当時地球政策研究所所長のレスター・ブラウン氏は、2009年の論文『食糧不足で現代文明が滅びる?』で次のように述べている。
「私は世界の農業、人口、環境、経済の傾向と、それらの相互作用を長年にわたって研究してきた。それらのトレンドの複合的影響と、その結果として生じる政治的緊張は、いくつかの政府と社会の崩壊を指し示している。それでも、食糧不足が個別の政府だけでなく地球規模の文明を破滅させかねないという考えには私も抵抗があった。だが私はもはや、そのリスクを無視できない。世界の食糧経済を蝕みつつある環境破壊――特に地下水面の低下、土壌の侵食、気温の上昇に私たちは相変わらず対処できておらず、そうした世界文明崩壊が起こり得ると結論せざるを得ない」