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北朝鮮“異常に厳しい”大学入試システム…ブローカー経由で試験問題の売買が横行

取材・文=相馬勝/ジャーナリスト
金日成総合大学
金日成総合大学(「Wikipedia」より)

 北朝鮮では超エリート学生が集まる名門である金日成総合大学ですら、期末試験や進級試験、卒業試験などでカンニングが横行していることから、大学側は新たな試験出題システムとして、今後は学生一人ひとりに異なる問題を出し、自分の問題を解くことに集中させることで、カンニングなどの学生の不正行為を防止する方法を採用することが明らかになった。

 北朝鮮の対外宣伝メディア「朝鮮の今日」が報じたもので、北朝鮮では大学内の試験に限らず、大学入試や公務員試験などもほとんどが一発勝負だけに、1回の試験で自分の人生が決まってしまうこともあり、カンニングのほか、試験官の買収による試験問題の漏洩などが社会問題となっているという。

 北朝鮮の超名門の最高学府、金日成総合大学には21学部があり、1万人を超える学生と約5000人の教職員が在籍しており、平壌市内の巨大キャンパスは一つの街を形成している。卒業生は党や政府の幹部として活躍するなど、北朝鮮の政治・経済の中枢を担っている。

 そのような優秀な大学生でも、試験の成績などを総合した席次によって、就職する省庁や企業などが違うため、学生の卒業後の人生にも影響することもある。このため、学生は試験にしのぎを削っており、試験の際にはカンニングが横行している。ときには、教授に金品を渡して試験問題を入手するなどの買収行為も行われているという。とくに、女性の場合は色仕掛けで教授を誘惑して試験問題を入手することも過去にはあったという。それらの不正行為を防ぐため、学生一人ひとりへの試験問題の出題という防止策が生み出されたというわけだ。

受験可能なのは1つの大学のみ

 とはいえ、大学入試の場合は一人ひとりにそれぞれ異なる問題を出すわけにもいかず、共通の問題による試験となる。

 まず第1関門が年末ごろ行われる北朝鮮統一の予備試験だ。科目は金日成同志の革命歴史、金正日同志の革命歴史、国語、数学、英語、化学、物理の6つで、2日間にわたって行われる。合格者は全体の7~8割で、総合点から受験する大学が分けられており、出願できる大学が当局から通知される。

 大学入試はほぼ定員の5~10倍の学生が受験するため、狭き門で、受験生の両親は子供が大学に入学できるかどうかが、自分たちの老後にも影響してくるため、大学入試問題を事前に入手しようと必死になる。

 なぜならば、北朝鮮大学入試では併願制度はなく受験可能なのは1つの大学だけで、失敗すればその年の入学試験は受けることができないからだ。北朝鮮の社会システムでは浪人は無理で、予備校もない。就職して仕事の傍ら受験勉強を続けるか、軍役を務めた後、再度試験を受け直すしかない。いわば、1発勝負だ。

 このため、予備試験が終わったころから密かに出回るのが、大学入試の試験問題で、受験生の両親は試験問題ブローカーに接触し、携帯電話の番号を教える。その後、大学関係者から連絡があり、価格や受け渡し場所、受け渡し方法を知らせて、取引が成立すれば試験問題が手に入るというわけだ。ただ、その試験問題が本物かどうかは、試験を受けるまでわからないため、偽の試験問題をつかまされることもあるが、不正な手段なので警察に訴えることもできず、被害者は泣き寝入りしかないという。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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