180億ドル(約2兆円)の純資産を持つ中国の複合企業「万達集団(ワンダ・グループ)」の総帥、王健林会長について、インターネット上で「11月14日午後4時54分(日本時間同日午後5時54分、北京で長い闘病生活の末、67歳で死去した」との情報が流れたが、会社側は全面否定し、「悪質ないたずら」として警察に通報した。
翌日、同集団の公式サイトが更新され、王氏は同日、ワンダのイノベーション(創造・革新)作業を推進する会議の議長を務め、「仕事は王様、イノベーションは無限大」などとする指針を明らかにして、「グループの仕事の創造・革新、経営の創造・革新、ビジネスモデルの創造・革新に良い仕事をし、年末にグループのイノベーション賞を授与する」と述べたことを明らかにした。
ワンダは今年に入ってから、傘下の「珠海万達商業管理(ワンダコマーシャルマネジメント)」の上場を目指し、香港証券取引所に新規上場の書類を提出していることから、 中国メディア「21世紀経済報道」は今回の死亡説に関して、「ワンダ・グループの株式公開を阻止するための悪意あるフェイクニュース」との見方を明らかにしている。
浮き沈みの激しい中国の経営者
王氏は立志伝中の人物だが、浮き沈みの激しい実業家として知られる。米経済誌「フォーブス」の2016年の長者番付で中国トップに輝いたが、翌年には4位に後退。中国政府による外貨の海外流出規制により資金繰りが悪化し、中国全土の不動産資産を投げ売りしたことで、資産が大幅に減少したことが原因だった。
17年8月には天津国際空港でロンドンに向かう直前、政府当局から外貨流出に関する取り調べを受けたことから、銀行からの資金融資がストップし、事業が暗転している。
ちなみに、17年の長者番付ナンバー1はこのところ債務不履行(デフォルト)騒ぎで中国発の金融不安が起こるのではないかと懸念されている広東省の不動産デベロッパー、中国恒大集団会長の許家印氏だった。王氏にせよ、許氏にせよ、その浮き沈みの激しさは中国におけるビジネスの厳しさを物語っているようだ。
経営立て直しの最中
とはいえ、その後、王氏はワンダの経営立て直しに取り組み、2019年の年次総会では「われわれは1平方メートルの不動産も保有しない」と発表し、もともとの基幹事業である不動産業から撤退したことを明らかにし、現在はグループ傘下に商業(商社)、文化、インターネット、金融の四大企業を保持し、映画制作、映画館運営、スポーツなどの事業を展開している。
とくに王氏は商業部門に力を入れており、中国有数の自動車製造・販売企業の中国第一汽車集団と提携し、グループの役員の車をすべて中国のナショナルブランドである「紅旗」に置き換えると発表したほか、両グループは、サービス・エコロジー、エネルギー・エコロジー、メンバーシップ・エコロジーの3つの側面で協力関係を深めている。このような事業展開が功を奏してか、フォーブス誌の2020年の長者番付で王氏は資産140億ドルと番付10位にランクインされている。
このようななか、王氏は今年10月22日、ワンダの復活をかけて、ワンダコマーシャルマネジメントの香港株式市場への上場を申請。60億ドルもの資金調達が見込まれていると伝えられた矢先に、王氏の死亡説が流れたことで、「これまでのグループの株式暴落で大損をした投資家の仕業だ」などとの憶測が出回っているが、真相は藪の中だ。
ただ、わかっているのは、「この6年足らずで約320億ドル(約3兆5000億円)の個人資産を失ったのだ。この間、これだけ急激に転落した資産家は他にいない」(ブルームバーグ)と伝えられるように、王氏の復活が予想以上に容易でないことを暗示しているようだ。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)