1枚の写真からその一部を抜き取って拡大するというような手を加えているのである。担当者が休んでいたというよりは、良くわかった人間にしかできない加工を行っている。これこそ偽装にほかならない。単純なミスで起きたものでないことは、はっきりしている。NHKは、この業者のデタラメな「反論」に依拠し、根拠なく野党を批判したのである。
通常メディアはこのようなケースで、工事事業者が「反論」したこと自体が事実であったとしても、その反論が事実を根拠にしているか、その反論の有無が問題となっている本論の要旨にかなうのかを考えて報道する。ここで問題になっていた藤原工業が試掘した写真資料は、8億円値引きの根拠資料であった。そのため、ほかのマスコミ各社は写真偽装に注目し、国交省資料を作成したとされる藤原工業社長の発言に注目し、「事業者がごみの写真の『引用を誤った』」「写真の使い回しを認める」と報道したと考えられる。
試掘は、地下深部からごみが出たのかを調査するのが目的
藤原工業が森友学園から校舎建設を委託され、16年に入ってから校舎建設に入った。その後の主な経過は、時系列で並べると次のようになる。
・16年2月、校舎建設の地盤対策のための基礎杭打ちに入った
・同3月11日、基礎杭に埋設ごみが引っかかったと近畿財務局に報告があった。
・同3月14日、近畿財務局、大阪航空局が現地視察に入り、地表面にごみが散乱している様子を見て、国(近畿財務局と国交省)が試掘調査の提案を行い、
・3月30日に試掘調査が行われる
その時の様子は、近畿財務局職員が「17枚写真資料」として撮影・作成した。17枚の内、16枚は積み上げられた埋設ごみであり、掘削穴は1枚であった。写真に写っている埋設ごみの山を見ると、大量のごみがこの時点でも埋まっていたことになる。
しかし、藤原工業が校舎建設に入る前年の15年7月から11月まで、森友学園から委託を受けた中道組が土壌改良工事を行い、重金属汚染土を除染し、埋設ごみの撤去作業も行っていた。その代金は森友学園が支払っていたが、貸付契約書の規定により国が支払うことになっていた。森友学園前理事長の籠池氏が、安倍晋三首相夫人の昭恵氏と官邸職員(当時)の谷査恵子秘書を通して財務省に早く支払うように求め、その代金約1億3000万円の支払いの約束をとったのは、この中道組が行った土壌改良工事の件である。したがって、国がこの1億3000万円を支払うにあたり、土壌改良工事の工事結果を確認していれば、17枚写真資料に見るような埋設ごみが、すでに撤去した土地から出るはずはないと一蹴してよいものであった。
一方、この土壌改良工事では、学園用地の校舎敷地となる北側約半分を3mまで掘削し、南側のグランド部分は1mの深さまで掘削していた。そのため、北側敷地部分については、もし3m以深(=より深い)の部分から埋設ごみが掘り出された場合には、新たに検討することになった。そこで、藤原工業が掘削した17枚写真に示された埋設ごみが、実際に3m以深から掘削されたものであるかが問題となり、その調査として行われたのが16年4月5日に実施された試掘である。
国は17枚写真資料に積み上げられた埋設ごみが3m以深から掘り出されたことが立証できる試掘写真資料が必要となり、4月5日に試掘したのである。そこで撮影・作成されたのが21枚写真資料である。
ところが、今回の回答書でも藤原工業は、もともと掘削した深さなど気にしていなかったと答え、写真の偽装についても「単純ミス」ですまそうとしている。
回答書の虚偽記載の数々
NHKは藤原工業の主張を正しいかのように、そのまま報じているが、同社の報告書を注意深く読むといくつもの虚偽が書かれてあることがわかる。まず、「平成27年(2015)12月3日付けで、学校法人森友学園と請負工事契約を締結し、地盤改良工事に着手しておりました」「しかし翌年になって、工事中に大量のゴミが掘りあげられてきた」と書かれてある。同社が土壌改良工事を行っている過程で大量の埋設ごみが出てきたというのだ。
しかし、森友学園の校舎建設工事では土壌改良工事を中道組が引き受け、その後に藤原工業は校舎建設を行ったのだが(※2)、中道組が埋設ごみを掘り出していた事実にはまったく触れていない。本件学園用地は大阪航空局自身が売却に備え、森友学園への貸し付けや売却問題が持ち上がる5年以上前から土地の調査を何度も行ってきた。
例えば2010年に行った調査データ(※3)によれば、埋設ごみが深さ3mより浅いところに少なからず埋設されていることは、わかっていた。しかし、その分は中道組が先に取り除き、約953トンの埋設ごみを除去していたと産廃マニフェストで報告されている。その分の工事費として森友学園が支払った金額は1億3000万円にものぼり、国が16年4月6日に支払うことを約束していた。
従って、藤原工業の回答書に書かれている、同社が土壌改良工事を行ったような記述は事実ではなく、したがって、同社の土壌改良工事で大量の埋設ごみが出てきたというのも事実ではない(※4)。もし同社が言うように、中道組が土壌改良工事(※5)を行った後も埋設ごみが大量に出てきたとすると、中道組が行ったとされる土壌改良工事も、それに伴って提出された産業廃棄物の交付・管理表や豊中市に提出された産廃マニフェストの内容もすべて事実ではないことになる。
その一方で、藤原工業が報告した産廃マニフェストでは、新築系混合廃棄物が194トンと報告され、ここで藤原工業が言う「大量の掘り出されたゴミ」は1トンも報告されていない。埋設ごみは「ゼロ」である。
また、新たに藤原工業が埋設ごみを掘削したことに対して国が工事費を支払えば、すでに国は中道組の土壌改良工事にも工事費を支払っているために、二重に支払うことになり、国の財務・会計上大問題となる。
結局、藤原工業がこの回答書で主張するような、同社が土壌改良工事を行い大量の埋設ごみが見つかったという内容を証拠立てるものはない。あえていえば、試掘写真資料しかない。しかし、その試掘写真資料は16年3月30日撮影の「17枚写真資料」と、同4月5日撮影の「21枚写真資料」だが、いずれも偽装が見つかっており、回答書はまったく信用に足りるものではない。
藤原工業の回答書は、同一の掘削穴を異なった穴と説明していた偽装を認め、しかも主張にも大きな誤りがあった。NHKは、このようなでたらめな回答書をよりどころとして、「工事業者が反論」と業者の主張が正しいかの報道を行い、森友事件の真相に迫ろうとしていた野党を名指しで批判した。これは政権の擁護を目的とした報道であり、公共放送として責任を問われる報道といえる。まず、このデタラメな回答書のどこに真実を見たのか、もしくはどこかの横やりで目がくらんでしまったのか、明らかにすべきである。
「森友写真偽装問題 新展開Ⅱ」では、なぜ写真偽装が行われたのか、その経過や事実をたどり疑問を詳細に解明する。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
【注釈】
※1:NHK「森友学園問題 立民・共産の議員の発言に工事業者反論」報道内容
森友学園への国有地売却をめぐり、立憲民主党と共産党の議員が、現場を試掘して報告書を作成した工事業者から説明を受けたあとに発言した内容について、工事業者は「正確に引用されておらず、まったく異なる意味内容となっている」などと反論しました。森友学園への国有地売却をめぐって、立憲民主党と共産党の国会議員は先月、ごみが埋まっていた現場を試掘し、報告書を作成した工事業者から説明を受けました。そして、説明を聞いた両党の議員は、野党側のヒアリングで、「工事業者は『報告書は若い社員がいいかげんに作ったもので、深さを意識してつくったものではない』などと話していた」と述べました。これに関連して、工事業者が参議院予算委員会の理事懇談会の求めに応じて弁護士を通じて回答した資料が4日、提出され、この中で工事業者は「私の説明した発言内容が正確に引用されておらず、発言の一部のみを引用し、都合よく発言内容を合体したため、まったく異なる意味内容となっている」などと反論しました。
※2:『森友 ごみが無いのに、なぜ、8億円の値引き』(青木泰著作 イマジン出版刊)
※3:「平成21年度 大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)地下構造物状況調査業務報告書(OA301)」等
※4:実際に藤原工業の豊中市に報告された産廃マニフェスト(17年5月19日)では、新築系混合廃棄物194.2トン。埋設ごみは「ゼロ」と報告されている。
※5:重金属除染と埋設ごみの撤去