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コロナによる東京からの人口流出ない?テレワーク実施率2割、通勤時間短縮の傾向も

文=横山渉/ジャーナリスト
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コロナによる東京からの人口流出ない?
「gettyimages」より

 2020年春から新型コロナウイルスが蔓延して以来、「都心から人が流出する」とか「郊外に流れる」などということがいわれた。実際はどうだろうか。総務省は11月30日、10月の住民基本台帳人口移動報告を発表しており、東京都からの転出者が転入者を3262人上回った。6カ月連続の転出超過である。東京都への人口集中が緩和されているのは間違いない。ただ、問題はその理由だ。

 ほとんどの大手メディアは新型コロナの影響であると分析している。たとえば時事通信(11月30日付)では「新型コロナウイルスの影響で都外からの流入が抑制される一方、テレワークの広がりを背景に郊外への転出が進んだとみられる」と伝えている。東京新聞(11月30日付)は「新型コロナウイルス感染を踏まえ、人が集まる東京都への転入を控える傾向が続いているとみられる」と報じている。

 しかし、冷静に考えればわかることだが、たとえ東京近郊の横浜や大宮、千葉に引っ越したところでコロナ禍を避けることは難しい。東京近郊の都市もかなりの人口密度であり、駅前やショッピングセンターなどは相当な混雑具合であることに変わりはないからだ。

 東京23区からの転出者がどこに移ったのか分析した記事がある。4月19日付の東京新聞によれば、1位が藤沢市、2位が三鷹市、3位が横浜市中区となっている。4位以下は小金井市、川崎市宮前区、川崎市高津区、千葉県船橋市、神奈川県鎌倉市、茨城県つくば市、横浜市港北区となっている。コロナが怖くて東京から脱出したという話ではないことが一目瞭然だ。

 では、なぜ、東京から人口が流出しているのか。不動産コンサルタントの長嶋修氏はこう説明する。

「東京都の人口流出、23区に限っていえば、圧倒的に外国人が多い。そもそも、新規で入国する外国人がいなくなった。日本人に限れば、流入のペースが鈍化したにすぎない。都心から郊外に移動するケースも多少はあったものの、それは都心の不動産価格が高くなりすぎたから。現在の低金利を利用して、郊外に住宅を求める人が増えた。新型コロナはほとんど関係ない。潜在的に地方移住しようと考えていた人のなかには、コロナ禍をきっかけに移住した人もいただろう。コロナがきっかけをつくったということはあるかもしれないが、民族大移動みたいな流れにはならなかった」

 総務省が毎月発表している人口移動報告だが、これには外国人の移動も含まれている。この点に着目しているメディアはほとんど見当たらない。

 長嶋氏が指摘するように、東京のマンション価格はバブル状態だ。民間調査機関の不動産経済研究所の調査によると、10月の首都圏新築マンション平均価格は、1戸当たり6750万円。これはバブル期の1990年を超えて過去最高だ。東京23区に限れば8455万円(前年同月比11.8%上昇)になっており、東京23区が首都圏全体の平均価格を押し上げるかたちとなっている。これでは、もはや平均的なサラリーマンが23区内にマンションを買うのは不可能だろう。

コロナ禍でも利便性重視の住宅選びは変わらない

 日本生産性本部は10月21日、第7回「働く人の意識調査」結果を発表した。これは、新型コロナが組織で働く人の意識に及ぼす影響を継続的に調査したものだ。それによれば、テレワークの実施率は22.7%で、2020年7月調査以降、2割前後で定着している。また、直近1週間における出勤日数では、週当たり3日以上のテレワーカーは58.8%だった。

 コロナ禍をきっかけに、テレワークを導入した会社がかなり増えたのは事実だ。そして、「テレワークが一定程度、定着」(生産性本部)という見方もその通りだが、テレワークを実施していても週の半分以上はオフィスに出勤している企業が過半数というのが実態だ。まったく出勤せずに自宅で自己完結するという業種・職種は、IT系などのごく一部に限られる。そうなると、首都圏よりさらに遠方への思い切った地方移住などまったく現実的ではない。

 長嶋氏は、コロナ禍であっても住まい選びは依然として利便性が重視されていると話す。

「20年4~5月の緊急事態宣言中には、検索範囲が郊外や地方物件へと拡大し、情報閲覧や資料請求なども増加したものの、宣言が解かれるとその傾向も弱まっていったとのこと。むしろ『密を避けるため公共交通の利用を極力避けたい』『通勤時間のムダを削減したい』などの理由から、通勤や買物の利便性を重視する傾向が強まっている」

地方創生でも地方はますます人口が減る

 地方自治体は、地方創生のため「地方創生推進交付金」を国から受けることができる。それを活用して行うのが「地方創生起業支援事業」と「地方創生移住支援事業」だ。従来、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県) に在住して東京 23 区に通勤していた人は、東京圏以外の道府県または東京圏内の条件不利地域(奥多摩町や秩父市など)に移住すると、移住支援金として最大100万円もらうことができた。ただ、支給されるには、新規就業や起業が条件だった。つまり、移住先への転職が必要だった。

 この移住支援金、コロナ禍になって、20年12月からは支給要件が緩和された。移住先に転職しなくても、23区内の会社に在籍したままテレワークで働く地方移住者も100万円の対象となった。地方自治体の移住促進担当者のなかには、コロナ禍を地方創生や地方活性化に結びつけたいと意気込む向きもあったようだが、ある大手シンクタンクの研究員は「地方での仕事が増えない限り、一極集中の流れは簡単には変わらない」と話す。

 長嶋氏は、日本は人口減少が始まっていると指摘する。

「各世帯の人数が減っているので、世帯数は減っていない。人口問題研究所によれば、長期的には3000万人くらい人口が減るとされる。日本全体が均一的に減っていくわけではなく、人は大都市に集中しながら、地方では減っていく。局地的に減っていく。利便性を求めて人は集まる」

 やはり、テレワークが“一定程度、定着”した程度では、東京一極集中の大きな流れは変わらないと考えるべきだろう。そして、都心の不動産価格が落ちる要素は今のところ見当たらない。

(文=横山渉/ジャーナリスト)

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。

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