所得格差を測るための指標としてはジニ係数を使うことが一般的である。ジニ係数はゼロから1までの値をとりゼロに近づくほど平等で、1に近づくほど不平等なことを意味する。ジニ係数を算出するためには、世帯の所得データが必要である。韓国で国民の毎年所得を把握する調査としては、「家計動向調査」「家計金融・福祉調査」がある。韓国ではジニ係数を算出する際に、過去には「家計動向調査」のデータが使用されていたが、2016年以降は「家計金融・福祉調査」のデータが使用されるようになった。
ジニ係数を算出するための所得データは、すべての世帯が対象になっているものが望ましい。韓国では1990年からジニ係数を把握できるが、当初は都市2人以上雇用者世帯という限定された世帯のデータしか得られなかった。都市に限定されているということは、地方に居住している世帯は対象外となっている。一般的に、地方に居住する世帯の所得水準は都市に居住する世帯より低いため、このグループが除かれるということは所得格差が実際より低く出てしまう。
また2人以上世帯に限定されているということは、単身世帯が除外されている。さらに雇用者世帯に限定されているということは、非雇用者世帯、すなわち、無職世帯や自営業世帯が除外されている。単身世帯や非雇用者世帯については、グループ内の所得格差が大きく、このグループが除かれることによっても所得格差が実際より低く出てしまう。
当初のジニ係数は対象世帯が限定されていたため、実際よりジニ係数が低く出ていたと考えられる。さらにジニ係数が示す方向も実際とは異なっていた可能性も否定できない。しかしながら、2000年代後半までは全世帯を対象としたジニ係数が把握できないので、1990年代から2000年代中盤までは、限定付きのジニ係数で韓国の所得格差の動向をつかむしかない。ただしこの限定は2000年代後半に解消された。2006年までに段階的に対象とされる世帯が拡大され、現在はすべての世帯にまで対象が広げられた。
2010年代のジニ係数は下落傾向
さて韓国のジニ係数の動きを1990年からみてみよう。「家計動向調査」から把握された都市2人以上雇用者世帯の所得(可処分所得である。以下、同様)のジニ係数は、1992年には0.245であったが、それ以降は緩やかに上昇するようになり、通貨危機が発生した直後の1998年には0.285まで急上昇した。2000年には通貨危機後の上昇はおさまったが、2009年までは上昇傾向が続いた。15年以上続いたジニ係数の上昇傾向に変化があらわれたのは2010年代になってからである。
2009年には0.295であったジニ係数が、2015年には0.269にまで下がるなど、2010年代に入りジニ係数は低下に転じた。2006年からは「家計動向調査」の全世帯を対象としたジニ係数が把握できるようになったが、都市2人以上雇用者世帯のみのものと同様、2008年までは上昇したがそれ以降は下落傾向を示している(図)。
2016年以降は「家計金融・福祉調査」のジニ係数が公式値として使用されるようになったが、数値は2011年から入手が可能である。ちなみにこのジニ係数についても全世帯の数値が把握可能である。「家計金融・福祉調査」のジニ係数は「家計動向調査」のものよりも数値が高く出る傾向があるが、方向をみると2011年からほぼ一貫して下落傾向にある。よって、「家計動向調査」でみても「家計金融・福祉調査」でみても2010年代のジニ係数は下落傾向であることがわかる。
つまり、韓国では1990年代に入ってからは所得格差が拡大傾向で推移してきたが、2010年代に入り所得格差が縮小傾向に転じたことがわかる。ただし、OECDによれば、直近でも韓国は、OECD加盟国のなかで所得格差が比較的大きいほうに入っている。今後も韓国政府には所得格差縮小に向けた政策が求められている。