林芳正外相は14日、参議院予算委員会の質疑で、ロシア軍の侵攻により安全が懸念されているウクライナ国内のチェルノブイリ原子力発電所などの複数の原発で、「まさかの事態」が生じた場合、「日本が放射線被ばく医療や除染など支援を行うことができるのか」について関係機関と協議を開始する意向を示した。
公明党の秋野公造氏(比例)の質問に答えた。秋野氏の質問は以下の通り。
「原発や核利用施設を攻撃したり、核兵器の使用をちらつかせるようなことが絶対にあってはならないと申し上げたいと思います。
しかしながら、まさかの事態がずっと続いております。かつてウクライナのチェルノブイリ原発事故の医療支援は、日本が先頭に立って行ったことであります。また福島原発の時にもIAEA(国際原子力機関)の指揮のもとに、ウクライナの皆様方が応援に来てくださいました。
こういった備えが必要と考えておりまして、邦人含めまして避難された方々に対する支援を行うことは無論、顔が見える関係で日本が得意なこと、放射線被ばくをした際には除染を行ったり、高度被ばくをした場合には、日本に移送して緊急被ばく医療を行う準備を検討すべきかと思いますが」(発言ママ)
これに対し、林外相は「唯一の戦争被爆国であり、東電福島第一原子力発電所事故を経験した我が国にとって、ご指摘の点は大変重要であり、さっそく関係当局とともに協議を開始したいと考えている」と答弁した。
チェルノブイリ職員、疲労で機器の補修できず
ウクライナ国内には、事故を起こしたチェルノブイリ原発関連の放射性廃棄物管理施設があるほか、欧州最大級のザポリージャ原子力発電所がある。現時点で周囲の空間放射線量などに異常はみられていないが、緊張した状況下続いている。
IAEAは13日、ウクライナ国内の原発の状況に関し、『Update 20 – IAEA Director General Statement on Situation in Ukraine』と題するプレスリリースを公開した。
同リリースによると ウクライナ当局は同国の専門家チームが13日、チェルノブイリ原発への外部電力供給を再開するために必要な電力線の修理に成功したとIAEAに通知した。ウクライナの原子力発電会社エネルゴアトムの責任者からの報告という。外部電源の供給停止に関し、IAEA使用済み燃料施設の冷却水の量が熱除去を維持するのに十分にあったため、「サイトの重要な安全機能に重大な影響はない」との見解を示している。
また、ウクライナ当局は、チェルノブイリ原子力発電所の職員が“3週間近くノンストップで作業したため”、身体的および精神的疲労のために、安全関連機器の修理と保守を行わなくなっていることをIAEAに報告したという。ウクライナ当局によると、ロシア軍に占拠される2月24日以来、211人の技術者と警備スタッフが交代することができていない。ウクライナ当局は原発構内の職員と直接連絡を取ることができず、原発構外の原発管理者から情報を得ているという。
ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長は、施設の職員が悲惨な状況に直面している点、原発からの通信が安定的に確立できていない点、解決されつつある電力供給の問題に関し、安全確保が急務であることを指摘。グロッシー事務局長はそのうえで、「チェルノブイリ原子力発電所は数日間、非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なかったため、前向きな進展だ」と述べた上で、「しかし、なおチェルノブイリとウクライナの他の核施設の安全とセキュリティについて深刻な懸念を抱いている」としている。
またウクライナ当局は同原発周辺区域は36年前の事故による放射性物質で汚染されたままであることを挙げた上で、自然火災が頻繁に発生する毎年恒例の「火災シーズン」に差し掛かりつつあることを報告したという。
一方でウクライナ当局は今月4日にロシア軍によって占拠されたザポリージャ原子力発電所に関し、ロシア軍司令官の管理下にあると報告したという。また、ロシアの国営原子力企業の社員少なくとも11人が駐在していることを現場の職員から知らされたという。グロッシー長官は、運用スタッフは「安全とセキュリティの義務を果たし、過度の圧力から解放された意思決定を行う能力を備えている必要がある」と反発している。
日本が支援するとしても「停戦」が最低条件か
仮にウクライナで”原子力非常事態”が発生した際、日本に何ができるのか。福島第1原発事故時に現地での復旧活動に参加した元東北電力幹部は「福島の時の支援もあり、もし何か起こった際、我々もできることをしたいとは思うが、あまりにも未曽有の状況で……。IAEAの指揮のもと、なんらかの支援をするにしても停戦が成立しない限り、難しいでしょう。道路、鉄路、空路のすべてのルートの危険性が高く、被爆した人を日本国内に移送して治療するにしても、こちらから資機材や要員を派遣することもできないのではないでしょうか。
日本には原子力規制庁や環境省、各研究機関などの除染スペシャリスト、東電の廃炉技術者、長崎大医学部など世界有数のデータを持っている被ばく医療の専門家などがいるのでいろいろと役立てることはあるとは思います。例えば、外部電源が喪失した際、サイト内の電力を一時的に供給するための電源車は、日本の原発事故、日本各地に大量に配備されているので、余剰分を貸し出すなど、方法はいろいろあるとは思います。事態は現在進行形で推移しているので、日本政府も国内の学者や電力事業者も、できることを考える時期に差し掛かっていると思います」
(文=Business Journal編集部)