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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、出生率3割減、妊娠を恐れる風潮…ゼロコロナ政策が災い、経済の長期停滞の兆候

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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中国では出生率低下が進行(「gettyimages」より)

 中国国家統計局が4月30日に発表した4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は47.4となり、前月より2.1ポイント低下した。2カ月連続で好・不調の境目である50を下回り、中国の新型コロナウイルスのパンデミックがこれまで最も悪化した2020年2月以来の低水準を記録した。非製造業のビジネス活動指数も同様に低迷している。中国各地で3月以降、感染拡大が続いており、上海市などの大都市が相次いで都市封鎖(ロックダウン)に追い込まれていることが大きく影響している。

 新型コロナのパンデミック宣言があってから丸2年が過ぎ、世界の対応は二極化している。多くの国がウイルスとの共存を図って制限を緩和する一方、中国は感染撲滅を目指す「ゼロコロナ」政策を堅持している。だが、感染力の強いオミクロン変異株が出現したことで、コロナ初期時代の強引な抑制策は機能しなくなりつつある。ロックダウンが長引けば長引くほど制限に対する経済に与える悪影響が顕著になっているのが現状だ。

 中国の感染症研究の第一人者である鐘南山氏は4月下旬、「中国のゼロコロナ政策について長期的に続けることはできない」と主張する論文を発表した。鐘氏は同政策について「感染者と死者数を最小化する上で極めて重要な役割を果たした」と評価する一方、「中国は社会・経済発展を正常化し、再開するグローバル化の動きに適応するため、国を再び開放する必要がある」と指摘した。これに対し、中国政府はゼロコロナ政策を堅持する姿勢を崩していない。「ゼロコロナ政策を緩和した場合、中国で1年以内に200万人の死者が出るリスクがある」というのがその根拠だ。

 中国当局がゼロコロナを続けなければならない理由の一つに国産ワクチンの効果の低さがある。中国製ワクチンはウイルスの死んだ部分を使って生産される「不活化ワクチン」だが、米ファイザーや米モデルナが開発したメッセンジャーRNAワクチンに比べ有効性が低く、時間とともにその効果がさらに落ちるという欠点がある。オミクロン変異株に対して中国製ワクチンはほとんど効かないとされている。

 中国では一時、米ファイザー製ワクチンのライセンス生産が検討されていたが、政治的な理由で中断を余儀なくされたという。中国企業も独自のメッセンジャーRNAワクチンの開発に取り組んだが、有効性が低かったために開発を断念した経緯がある。オミクロン変異株に有効なワクチンを接種できない中国は、今後も世界で最も厳格なロックダウンに頼らざるを得ないのだ。

パンデミックが出生率に影響

 ロックダウンの悪影響は経済活動にとどまらない。新型コロナがまん延し、ロックダウンで自宅に閉じ込められために、世界全体で性的な活動が減退し、2020年後半の出生数は急激に減少した。「人間は高度な不確実性をもたらす長い破壊的な出来事に直面したときに出生数が減る傾向にあるからだ」と専門家は指摘する。

 1918年のスペイン風邪のパンデミックの際にも出生数の減少という現象が見られたが、新型コロナの場合、減少した期間は比較的短かった。各国政府が行った景気刺激策と極めて有効なコロナワクチンの開発によるところが大きいという。昨年後半になると、米国や北欧諸国、豪州などで出生数が回復し始め、先進国の出生数は今や、新型コロナのパンデミック前の水準にまで回復している。

 感染者数が海外と比較して少なかった中国でも出生数は大幅に減少した。中国の出生率(人口1000人当たりの出生数)は2019年から21年にかけて30%程度低下した。直近2年間の落ち込み幅は、大飢饉に見舞われた1959~61年以来、最大であり、国連の専門家は2020年後半に報告された出生数の減少について「パンデミックが出生率に影響を及ぼしている」と指摘している。

 パンデミックがもたらした健康や経済面の不安から、中国の多くのカップルが結婚や子づくりの決断を遅らせたり、見送ったりした。婚姻件数は減少しており、2020年の届け出数は前年比12%減の813万組にとどまった。中国はパンデミック前から人口減少の瀬戸際にあった。産児制限が数十年に及び、女性の労働市場への参入がさかんになったため、子育てに対する意識が様変わりした。

 中国政府は2016年に一人っ子政策を撤廃したが、人口の減少傾向は続いたままだ。政策当局は出生率の向上に取り組んでおり、昨年には夫婦が持つことができる子供の数を2人から3人に増やした。2人以上の子供を持つ親には、現金給付や出産休暇の延長といった優遇装置が適用されるが、こうした取り組みにはほとんど効果が出ていない。

中国の日本化

 海外でコロナ以前の日常を取り戻す動きが強まっているのにもかかわらず、中国政府がゼロコロナ政策を堅持していることが災いして、今年も出生率や婚姻率の低下に拍車がかかるとみられている。非常に厳しいロックダウンが続いている限り、若いカップルの多くが妊娠を恐れる状態はいつまで経っても変わらないだろう。

 中国社会科学院の専門家は4月中旬、「昨年の人口増加数は42万人にとどまった。今年は死者数が出生数を超える可能性が高く、人口が減少する可能性が高い。これは国連の中位推計よりも十年早い」と警告を発している。

 約30年前にバブルが崩壊した日本は、人口動態も相まって長期低迷に陥った。当時の日本以上に深刻な少子化と過剰債務の問題を抱える中国が、「日本化」に陥るのは時間の問題なのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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