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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、海外マネーが前例のない規模で逃避…不動産業界、ドル建て債券を先にデフォルト

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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「gettyimages」より

 中国経済は新型コロナウイルスの感染拡大の第1波に見舞われた2020年春以降、最悪の下押し圧力に直面している。政府が3月中旬に発表した1~2月の主要経済指標は市場予想を上回ったが、「実態に合致していない。3月はさらに悪化している」との見方が多い。中国経済は第2四半期にさらに減速する可能性が高く、「政府が掲げる今年の経済成長率目標(5.5%前後)は達成できない」との懸念が市場で広まっている。

 足元の経済活動に重しとなっているのは、新型コロナの感染拡大がもたらす全国的な移動制限強化(ロックダウン)と不動産セクターの継続的な落ち込みだ。3月28日、中国の最大都市である上海市までもがロックダウンに追い込まれた。中国政府のゼロ・コロナ対策による経済的損失が指摘されているなか、香港中文大学は3月下旬、「新型コロナ感染防止のためのロックダウンに伴う経済的コストは1カ月当たり460億ドルと中国のGDPの3.1%以上となる可能性が高い」との見解を公表した。この試算に上海市の事例を加えれば、経済的損失の規模は2倍以上になるかもしれない。

 ロックダウン以上に需要に悪影響を与えるのは不動産価格下落による逆資産効果だ。中国の2月の主要70都市の新築住宅価格は前月に比べて0.13%下落し、1月の下げ幅(0.04%)を上回った。1~2月の土地販売収入が前年比30%減となり、財政が「火の車」になってしまった地方政府は需要喚起に躍起になっているが、事態が改善する兆しは見えてこない。

 中国の不動産業界の資金繰りは悪化の一途をたどっている。3月上旬に公表された民間調査によれば、主要な不動産企業100社の今年2月の銀行借り入れや債券発行などによる資金調達総額は前年比59%減の398億元(約7300億円)にまで落ち込み、最低記録を更新した。地方政府は地元不動産企業と金融機関の間を取り持つなどの取り組みを行っているが、金融機関は不動産業界への新規融資に及び腰のままだ。

不動産業界の資金調達が急減

 不動産業界の海外からの資金調達はさらに厳しい状況にある。主要不動産企業が起債を通じて2月に調達した資金額は、国内では30%減だったのに対し、海外では69%も減少した。中国の金融機関以上に外国の機関投資家は不動産企業の経営状態の不透明性を憂慮している。開示情報だけでは簿外債務がいくらあるのか判断できず、債務返済能力を評価できないからだ。

 昨年の監査済み決算を規定の3月末までに発表できない企業が相次いでいることも、不動産業界に対するセンチメントをさらに悪化させている。大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパースは中国の不動産企業の監査から段階的に撤退する方針を明らかにしている(3月25日付ブルームバーグ)。

 中国の不動産企業が国内と海外の債権者を公平に扱わず、海外で発行したドル建て債券を先に債務不履行(デフォルト)させていることにも不満が高まっている。ゴールドマン・サックスは3月18日、「中国の不動産企業が発行した高利回り債(ジャンク債)は、今年に入り発行残高の4分の1近くがデフォルトに陥った」との見方を示した。年初来からのデフォルト率は5.5%だが、デフォルトを回避するための債券の交換や返済期限の延長を行うのが常態化しており、これらをデフォルトとみなせば実際のデフォルト率は23.4%に上昇する計算だ。不動産業界は4月に23億ドル、6月から8月にかけて毎月30億ドル以上の債券が償還期限を迎えるため、今後さらにデフォルト数が増える公算が大きい。

対ロシア制裁、中国へ波及の懸念

 外国人投資家の中国経済に対する見方が厳しくなっていることを受け、中国政府は信頼を取り戻すための政策を講じているが、ロシアが2月24日にウクライナに侵攻したことで思わぬ逆風が吹いている。世界の投資家は中国の資産をめぐる政治リスクにも敏感になっている。西側諸国がロシアに対して厳しい経済制裁を発動したことで、ロシアの資産が実質的に無価値となり、多くの投資家が痛手を被ったことが関係している。

 米国政府は「中国が米国の制裁措置を破っていることを示唆する証拠はない」としているが、習近平国家主席が2月4日に北京冬季五輪の開催に合わせてロシアのプーチン大統領と対面で会談し、強い結束を強調したことが仇となっている。投資家は「バイデン政権が中国にペナルテイーを科すのではないか」との不安を払拭することができないのだ。

 外国人投資家の2月の中国国債の保有額は過去最大の減少を記録した。ユーロとドルで保有する外貨準備を凍結されたロシア中央銀行が、保有する中国国債を売却して資金を調達するとの観測が出たからだ。3月に入ると、外国の機関投資家による中国の人民元建て債券の保有残高も3年ぶりに減少に転じた(3月18日付東洋経済オンライン)。

 米国と欧州連合(EU)による対ロシア制裁が何らかのかたちで中国に波及する可能性などが嫌気され、年初来の3カ月間で売却された中国株は過去最高の60億ドルに上る。国際金融協会(IIF)によれば、ロシアのウクライナ侵攻以来、他の新興国市場への資本流入が続いているのにもかかわらず、中国から投資マネーが前例のない規模で引き揚げられているという。マネーの大量流出が続けば、中国の不動産バブル崩壊は時間の問題だ。ロシアのウクライナ侵攻のせいで中国経済のハードランドシナリオはますます現実味を帯びてきているのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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