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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、台山原発の事故を隠蔽、放射性物質が放出…原発数100基へ拡大、世界1位に

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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中国(「gettyimages」より)

 国際原子力機関(IAEA)は3月7日、「ウクライナ第2の都市ハリコフの原子力研究施設が損傷を受けたが、放射線量の上昇は見られない」と発表した。IAEA理事会は3日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、ウクライナが国内のすべての原子力関連施設を管理できるよう要請する決議を採択していた。

 ウクライナに侵攻したロシア軍が1986年に爆発事故を起こした北部のチェルノブイリ原子力発電所近辺に保管されていた使用済み核燃料などを接収し、ウクライナ最大の原子力発電所がある南部ザポリージャの周辺地域を掌握していたからだ。ザポリージャ原子力発電所は欧州最大の原子力発電所だ。原子炉6基、合計出力は600万キロワット、ウクライナの発電容量の2割を占める。原子力発電所の訓練棟で火災が発生した際に4号機が運転していたが、幸いにも周辺地域の放射線量の増加は見られていない。ウクライナの電力会社職員はロシア軍に銃口を突きつけられながら操業を続けているとされている。

 過去を遡れば、建設中の原子炉が軍事攻撃を受けた事案はある。イスラエル軍によるイラクのオシラク原子炉空爆(1981年6月)やテロリストによるフランスの高速増殖炉への対戦車ロケット攻撃(1982年1月)などだが、運転中の商業用原子力発電所が軍による攻撃を受けるのは初めてだ。ロシアも批准しているジュネーブ条約では、商業用原子力発電所への攻撃は明確に禁止されている。

 国際法違反を犯してまでロシア軍が原子力関連施設をターゲットにしている理由は定かではないが、原子力発電所の安全リスクが改めて浮き彫りになった。

 ザポリージャ原子力発電所で稼働しているのは旧ソ連型の加圧水型原子炉だ。加圧水型は現在世界で稼働している原子炉の主流を成す軽水炉の1タイプだ。ザポリージャ原子力発電所の建設が開始されたのは1980年、旧ソ連型とはいえ欧米の加圧水型原子炉とほぼ同様の安全基準をクリアしているという。軽水炉の本体は攻撃を受けても大丈夫だが、炉心の周辺で生じたトラブルをマンパワーで適切に処理しないと炉心溶融が起きるという弱点がある。東京電力の福島原子力発電所が外部電源喪失により重大事故を引き起こしてしまったことは記憶に新しい。

中国・台山原子力発電所の事故、再発の懸念も

 この問題を解消するために考案されたのが第三世代原子炉と呼ばれるものだ。欧州加圧水型原子炉(EPR)の開発が先行していたが、建設費が高騰し経済性の面で大きな問題を抱えていた。導入が難航する欧州の状況を尻目に世界に先駆けてEPRの商業運転を2018年に開始したのは中国だった。だがEPRを採用した中国広東省にある台山原子力発電所で昨年6月、放射能漏れ事故が発生した。台山原子力発電所の開発資金は、中国国有原子力大手の中国広核集団が7割、フランス電力公社が3割負担している。

 米CNNの報道などで事故の発生が明らかになると、中国政府は「燃料棒の損傷により放射性物資の濃度が上昇したものの安全基準は満たしている」として運転継続を許可したが、翌7月に「保守管理」を理由に事故が発生した原子炉の運転を停止し、現在に至るまで運転を再開していない。中国政府は「わずか5本の燃料棒が損傷したにすぎない」としているが、「大量の放射性物質が放出されたことから、かなりの数の燃料棒が損傷した可能性がある」と指摘する専門家は少なくない。

 中国政府はこの事故について情報統制を敷いたままだが、フランスの民間調査機関であるクリラッドは今年2月、昨年11月に入手した資料を元に分析した結果を公表した。それによれば、事故の状況は中国政府が報告したものよりもはるかに深刻だった。「燃料棒の破損は原子炉の異常な振動が原因であり、振動は中国に導入されたEPRの設計上の欠陥に起因しており、同じ事故が再発する可能性は高い」という衝撃的な内容だ。コストダウンを実現するために中国がEPRの設計に改悪を行った可能性がある。

世界最大の原発大国に

 中国外務省は4日、ロシア軍によるウクライナの原子力発電所に対する攻撃をめぐり、「ウクライナの原子力施設の安全保護の状況を深刻に懸念している。関係各国は原子力施設の安全を確保するよう呼びかける」と強調したが、福島原子力発電所事故以降、先進国で原子力発電の新規建設がスローダウンする状況下で中国は突出するかたちで原子力発電の建設を進めてきた。

 中国では現在44基の原子力発電所が稼働し、その半数以上が東シナ海や南シナ海の沿岸部に建てられている。中国の原子力発電容量は2020年に4988万キロワットとなり、原発大国のフランスを抜き、米国に次ぐ世界第2位となった。2020年代半ばには米国を上回り、中国は世界最大の原発大国になる見込みだ。

 中国はさらに2030年までに原子力発電所を100基に拡大し、発電容量は現在の2倍以上の1億2000万キロワットに達する計画を有している(全体の発電容量に占める割合は8%)が、少子高齢化が猛烈な勢いで進む中国で原子力発電所の安全性を担保する人材が確保できなくなるとの懸念が生じている。

 ロシアのウクライナ侵攻を機にエネルギー安全保障の面から原子力発電を再評価する機運が出ている。この動きに水を差さないために、国際社会は中国の原子力発電の安全性についてもっと厳しい目を向けるべきではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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