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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、30年前のバブル崩壊直前の日本と酷似…原発事故を隠蔽、揺らぐ国際的威信

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
中国、30年前のバブル崩壊直前の日本と酷似…原発事故を隠蔽、揺らぐ国際的威信の画像1
「Getty Images」より

 米CNNは6月14日、「中国広東省の台山原子力発電所で放射性物資漏れが生じ、周辺地域の放射線漏量が高まっている恐れがあるとして、米国政府が調査している」と報じた。建設と運転を協力するフランスの原子炉製造会社「フラマトム」が、米国原子力規制委員会に技術協力を求めたという。事故が起きた台山原子力発電所は香港西部から130キロメートルの所に位置する。フラマトムの親会社であるフランス電力公社が30%出資し、世界最新鋭の原子炉が設置された。

 事故の原因は数週間前に起きた燃料棒の破損である。これにより放射性物質が流出したが、中国の安全規制当局は、運転停止を回避するために台山原子力発電所周辺の放射線量の許容限度を引き上げたという。中国当局が事故の公表を嫌がったために、フラマトムはやむなく米国を通じてその事実を明らかにした可能性が指摘されている。

 前日の13日に閉幕したG7(主要7カ国首脳会議)の共同声明では「中国への懸念」が表明されていたが、まさに時を同じくしてそれが的中する事態が起きていたのである。その後、事態は幸いにも深刻化しなかったようだが、国際社会が懸念するのはフランスと中国の間の不協和音である。中国政府の隠蔽体質が、今後大規模な原子力発電事故を引き起こしてしまうとの危惧が高まっている。

 今回の報道に触れてまず最初に頭に思い浮かんだのは、1986年4月の旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故である。当時のソ連当局は当初「原子力発電事故は生じていない」と主張していたが、多くの人命が失われたのは周知の事実である。1985年の逆オイルショック(原油価格の急落)により経済に大打撃を受けていたソ連は、この事故で国際的威信を失ったことが仇となって、建国約70年後の1991年に崩壊した。

 中国も建国後70年が経過したが、今回の原子力発電事故以上に新型コロナウイルスの発生を隠蔽したことで国際的な威信が大きく揺らいでいる。旧ソ連とは異なり、現在の中国経済はパンデミックからいち早く回復したことにより、今後10年以内に米国を追い抜く可能性が高まっているが、「躓きの石」はないのだろうか。

中国も「失われた30年」?

 中国の民間債務の対GDP比率(200%以上)や現在の高齢化率(13%)が30年前の日本と同水準になることは本コラムで何度も指摘したが、それ以外にも興味深い共通点が現れている。

 今から思うと隔世の感があるが、1990年代初頭の日本経済も「今後10年以内に米国を追い抜く」と予測されていた。当時の米国世論は日本を最大の敵とみなし、「日本異質論」や「政・官・財の癒着のトライアングル」などの非難の大合唱となった。最近の世論調査では、米国人の89%が中国を「競争相手」又は「敵」とみなしており、当時の日本に対するバッシングの風潮を彷彿とさせる状況となっている。

 現在の中国が当時の日本と類似するのは米国との関係だけではない。中国では最近「タンピン」という言葉が流行している。「タンピン」とは「だらっと寝そべる」という意味である。仕事をしないで寝そべって何も求めない、マンションや車も買わず、結婚もせず、消費もしないというライフスタイルのことである。

「改革開放」以来、経済の右肩上がりが続いてきた中国では、猛烈に働き地位や財産を得て裕福な家庭を築くことが国民の目標となってきたが、不平等感の高まりと生活コストの上昇で、この目標ははるか遠く手の届かないものになってしまった。就職難や物価の高騰、当局による情報統制などにより閉塞感が漂っており、「90後(90年代生まれ)」「00後(2000年代生まれ)」と呼ばれる世代を中心に、アグレッシブな親たちが望む出世や結婚などに関心を持たない人々が急増している。

 中国の若者の急激な変貌ぶりを見て、筆者は「既視感(デジャブ)」を感じずにはいられない。30年前の日本の若者とそっくりだからである。『若者・アパシーの時代:急増する無気力とその背景』という著書がバブル経済真っ盛りの1989年に出版されている。アパシーとはドイツ語で「外界からの刺激に無感覚になること」を意味する概念であり、1960年代の米国で生まれた。著者である稲村博氏は「近年極端に無気力な状態を続ける若者が急増している。病気でもないのに仕事にも就かず長期間何もしない若者が目立つようになった」とした上で、「その原因は進学一辺倒の競争社会や若者から夢を奪う管理社会などだ」と指摘している。

 若者が仕事をせずにお金を持たず消費しない社会になれば、高度な経済発展は望めなくなるのは中国も同じである。金融市場では、長年の過剰債務のツケが大問題となりつつある。中国最大の不良債権処理会社である華融資産管理をめぐる不安が、他の資産管理会社や地方政府系国有企業に波及し始めているが、政府はいまだに抜本的な改善策を提示できていない。

 中国銀行保険監督管理委員会は10日、銀行の不良資産拡大などに改めて警告を発したが、その背景には中国経済の回復ぶりに注目して大量の投機マネー(ホットマネー)がこのところ大規模に流入し、不動産バブルを深刻化させていることがある。中国の専門家は「ホットマネーの流入は日本の不動産バブルが弾けた状況と似ている」と認識しており、米国連邦準備制度理事会(FRB)が今年後半に量的緩和を縮小することを契機にホットマネーが中国から大量に流出することになれば、不動産市場のみならず金融システム全体が悪影響を被るのではないかと警戒しているのである。

 中国も日本のように「失われた30年」を経験する可能性が日に日に高まっている。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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