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法人税率引き下げに賛否両論〜企業の7割が納税せず、「国際的に見て高負担」への疑問

文=blueprint
法人税率引き下げに賛否両論〜企業の7割が納税せず、「国際的に見て高負担」への疑問の画像1「Thinkstock」より

 安倍晋三政権は9月18日、法人税に上乗せしている復興特別法人税の終了を1年前倒しして、来年4月から法人税の実効税率を引き下げる最終調整に入った。来春に予定している消費増税による景気腰折れを避けるために行う、5兆円超の経済対策の柱の一つとなる見込みだ。

 19日付日本経済新聞によると、安倍首相は18日、麻生太郎副総理兼財務相と首相官邸で会談し、復興特別法人税廃止の1年前倒しと、2015年度以降に段階的に法人税率を引き下げ、主要国並みにすることを要請した。しかし、引き下げをめぐっては、両者の間に温度差があるようだ。

 安倍首相は主要国と比べて高い法人実効税率を引き下げることで、日本企業の競争力を高めるとともに、海外企業を日本に呼び込み、雇用拡大や賃上げにつなげる狙い。ロイターは8月16日付記事で「その効果を設備投資や賃金アップにつなげることができるのか、企業の知恵や決断次第となりそうだ」としながらも、企業サイドからの法人税減税を望む声を伝えた。ロイターが7月に実施した企業調査では、

「国際競争に影響する税率の引き下げは不可欠」(その他製造)
「海外移転の抑制」(運輸)
「研究開発投資余力の増強となる」(機械)
「設備と雇用の増加につながる」(精密機器)

など、法人税減税に大きな期待を寄せる声が数多く出ている。

 これに対して、麻生財務相は復興税の廃止が被災地の反発を招きかねないことや、法人税率を引き下げても企業が内部留保にまわす可能性など、懸念を示している。また、13日の閣議後記者会見では、「企業の7割がいわゆる税金を払っていない、法人税を払っていない欠損法人ということになっている。(減税は)効果がきわめて限られている」と述べている(9月13日付日経QUICKニュース記事)。

 1月25日付東京新聞によると、優遇措置を活用して、毎年、国内企業の7割前後が法人税を納めていないという。過去の損失を何年間も持ち越せる制度があり、1990年代の金融危機で巨額の損失を計上した大手金融機関は、立ち直った後も最近まで20年近く納税していなかった。東京新聞は「税率を下げる必要はあるのかもしれないが、課税ルールは国民が納得できるものにしなければならない」と指摘している。

 また、Twitter上でも「【トヨタ自動車は今年、5年ぶりに法人税を納税】する。2012年三井住友銀行は15年ぶりに、りそなは18年ぶりに法人税を納税。そもそも日本を代表する大企業やメガバンクが、法人税を1円も納付しないこの法人税の仕組み自体が異常だろ?法人税減税に言及するのなら少なくとも払ってから言えよ!」などと、法人税の減税を疑問視する声が見られた。

●日本の負担比率はむしろ低い?

 さらに、「日本の法人税が国際的にみて高い」という前提自体を疑っているのが、コラムニストの沢利之氏だ。沢氏は8月13日に自身のブログで、「法人税(法人税と地方税)のみを見るだけでは、企業の実質的な税負担の比較はできない。つまり社会保険料の負担程度を含めて考えないと本当の企業負担の比較はできない」と指摘。

 情報サービス業での税・社会保険料の負担比率では、日本44.2%、アメリカ46.7%、ドイツ55.7%、フランス70.1%と、「数字を見る限りでは日本企業の負担比率は先進国に較べてむしろ低いと思われる」と分析している。そして、「日本の法人税は国際的に見て高い」という意見はあまりにも表面的過ぎると指摘し、消費増税と同時に法人減税に踏み切るのであれば「企業はそのメリットを社会に対してどのように還元するのか示していく必要があるだろう」と述べた。

 これまでも景気の腰折れを防ぐため財政出動を行いたい安倍首相と、財政規律を重視する財務省の“綱引き”が続いてきた経緯があり、また自民党と連立を組む公明党は法人税の引き下げに慎重な姿勢を示してきたことからも、今回の法人税率引き下げは、今後も議論の的になりそうな気配。加えて、政府としては「企業優遇、家計軽視」と国民に受け取られないための対策が必要となりそうだ。
(文=blueprint)

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総合カルチャーサイト「Real Sound(音楽・映画・テック・ブック)」の運営や、書籍や写真集の発行、オウンドメディアの制作支援など“編集”を起点に様々な事業を行っている。
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