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多額献金で人生破綻…統一教会、違法判決でも国が活動を禁止できない理由

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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統一教会(世界平和統一家庭連合)の本部(「Wikipedia」より)
統一教会(世界平和統一家庭連合)の本部(「Wikipedia」より)

 安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者が「母親が旧統一教会の信者で、多額の寄付をして破産した。安倍元首相がつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」などと話していることを受け、統一教会(世界平和統一家庭連合)の元信者や被害者支援団体などが相次いで、教団による悪質な献金集金手法の実態を証言し、クローズアップされている。だが、なぜ政府は、そんな統一教会の活動を野放しにしてるのだろうか。そこには、たとえ政府であっても、宗教法人の活動を容易には制限できない理由があるという――。

 統一教会といえば1990年代、歌手の桜田淳子など有名人が合同結婚式に参加したことでその存在が注目され、教団が信者に多額の献金を納めさせ、壺や印鑑などを高額で売っている実態が明るみになり社会問題化。その後は世間の関心も薄れていたが、安倍氏銃撃の事件を受けて、現在も世界平和統一家庭連合と名前を変えて信者を集め続けていることが公になった。

 11日に統一教会の田中富広会長らは会見を行い、「過去にトラブルがあったのは事実だが、2009年に当時の会長が声明を出してからは献金に対する姿勢は変わった」と説明したが、統一教会による被害者の支援に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会は12日に会見を開き、弁護士や消費生活センターに寄せられた統一教会に関する相談の被害総額は昨年までの5年間だけで約580件、約54億円に上ると報告。現在も献金をめぐるトラブルは続いているとした。

 会見に同席した元信者は、「犯人のしたことに関しては何一つ擁護することもないですし、正しいとも思っていません」とした上で、「人生を統一教会によって破綻させられた身としては、理解できてしまうという苦しい心情があります」「それだけ統一教会は人生を破壊します」と告白。また、各種報道では、教団が信者に保有する不動産を担保に借金をさせてまで献金させたり、一人に億円単位で献金をさせたりしているという証言も出ている。

「カルト的な集団」

 同弁護士連絡会に所属する紀藤正樹弁護士も12日放送のテレビ番組『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)内で次のように語っている。

「統一教会がカルト的な集団であることは間違いなくて、社会規範との逸脱性が激しいからです」

「高齢者の方の“なけなしのお金”をですよ、霊感商法で奪って、それを統一教会に捧げることがですね、それが相手の救いになると思ってるんですね」

「昨日の(田中富広・統一教会会長の)会見でも『破産に追い込むまでない』って言ってましたけど、そんなことないです。『早く現金』っていって、統一教会のなかで『HG』っていってですね、借金献金のことなんですよ。統一教会にお金を捧げていくと、不動産売ることになる、現金は全部支払うことになる。最後、何も財産ない。そうすると『借金してでも献金しよう』なんです」

「そのときに統一教会の現場では何が教えられているかというと、『どうせ破産なんだから、どんどん借りてこい』っていうんですね」

「末端信者の方たちは『万物復帰の教義ですべてを捧げなさい』と言われている。実際の現場では『全てをいっぱい捧げることが自分の罪の清算になるし、先祖で苦しむ人の救うことになる』と教えられる。自分の財産すべてを提供することが、とても統一教会信者にとっては重要になる」

「霊感商法で購入した代金、それ以外にいろんな献金があるんですよ。数百万円いくものもあって、ひどい人だったら数千万円の被害っていうのはザラにあるんですね」

安倍氏「総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」

 統一教会をめぐって献金以外で焦点となっているのが、政界との関係だ。同弁護士連絡会は会見で、

「(20年以上前の)当時、国会議員の秘書の経歴を調べたとき、公設私設含めて100数十人規模の信者が務めていました。彼らの少なくない数が地方議員になっています」

と解説。同席した前出・元信者女性は、安倍元首相の祖父で元首相の岸信介氏と統一教会の創設者・文鮮明氏が一緒に写った写真を見せられたことがあると証言。元信者でルポライターの多田文明氏も7月12日付「プレジデントオンライン」記事で、

「統一教会に限らず宗教団体は信者の勧誘時に『うちは、○○さんという政治家の支援を受けている』などとしばしば口にします。つまり、政治家の権威を利用して、自らの思想を信じさせようとしてくるわけです」

と振り返っている。

 そして安倍氏は、小泉政権の内閣官房長官を務めていた2006年、福岡で開催され、創設者の韓鶴子氏らが出席した統一教会の大会に祝電を送付。また、「しんぶん赤旗」によれば、昨年9月に統一教会の関連団体・UPF(天宙平和連合)が開いた集会に安倍氏は

「韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」

などと語るビデオメッセージを寄せており(韓鶴子氏はUPFと統一教会の総裁を務めている)、統一教会の機関紙「世界思想」の表紙にたびたび安倍氏の写真が掲載されてきたことも知られている。

 さらに安倍政権下で首席秘書官を務め、今回の参院選で当選した井上義行氏(自民党)も、昨年行われた統一教会の集会に出席して

「井上先生はもうすでに信徒になりました」

と紹介され、井上氏も

「私は大好きになりました」

とスピーチしていたことがわかっている。

「現警察庁長官の中村格さんは、安倍さんが“引き上げた”と霞が関でいわれるほど、安倍さんからの覚えがめでたかった。その安倍さんが『敬意を表す』とまで評する団体に警察が手を出すとは考えにくい。また、安倍さんと中村長官の関係を抜きにしても、自民党のなかには統一教会と関係が深く、選挙で教団の支援を受けているとされる議員は一定数おり、統一教会は政治案件とみなされていることもあり、警察もタッチしたくないというのが本音だろう。宗教法人を管轄する文科省も、少なくても自民党政権が続く限りは、わざわざ触れることはない」(全国紙記者)

宗教は憲法上も手厚く保護

 とはいえ、実際に全国各地で元信者やその家族らから統一教会を相手取り、違法な手段で献金をさせられたとして損害賠償などを求める裁判が数多く起こされ、違法性を認める判決が出ている以上、こうした団体の活動を国は野放しにしたままでよいのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は次のように解説する。

「宗教法人と宗教団体に分けて考える必要があります。この統一教会は宗教法人法に基づく法人格を有しておりますので、法律による監督を受けます。たとえば、裁判所などによって『違法な献金』が認定されたりしているのであれば、宗教法人法81条第1項第1号『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと』などに該当するとして、文部科学大臣の職権等により、強制力のある『解散命令』を発令されることもあります。

 宗教法人は、税制上の優遇措置(お布施に税金がかからないなど)や、その所有不動産は差押えの対象にならないなど、様々な“恩恵”が認められているので、日本の公益や国民の生活にとって害悪となるほどの宗教法人であれば、解散命令などにより排除しなければなりません。

 もっとも、宗教というものは、憲法上も手厚く保護されており、『宗教法人』ではなくても、人が集まって団体として宗教活動を行うことは可能です。このため、“恩恵”のある『宗教法人』格をはく奪しても、強制力をもって『違法な献金』などを禁止したり宗教活動や宗教活動まがいを禁止することができません。

 過去に、オウム真理教に対し『破壊活動防止法』という法律が適用されたことがあります。この法律は、株式会社や宗教法人、医療法人といった法人ではなくても『団体』なら適用することができるのですが、内乱、騒乱、爆発系犯罪、公務執行妨害系犯罪等を行う団体に適用される法律なので、『お金』の問題の団体には適用できません。

 現行法制では、危険な団体や、お金の問題がある宗教法人や宗教団体を、直截的に解散させたり活動を制限したりすることは、なかなか困難です。しかしながら“新興宗教”と言いば『お布施』『献金』と称するカネ集め問題が絶えません。

 そもそも宗教とは、超自然的な存在を信じて、畏敬崇拝する心情や行為をいいます。『お金を払わないと天国にいけない、先祖が救われない』云々、『お布施の額で宗教団体内の地位があがる』云々など、ハナからインチキなわけです。国民一人一人が、これをしっかりと理解する、理解させていくことが一番大切です」

 全国霊感商法対策弁護士連絡会は昨年9月、安倍氏宛の公開抗議文で次のように綴っている。

<(編注:UPFの)WEB集会において、安倍晋三前内閣総理大臣の基調演説が発信される事態が生じました。これを統一教会が広く宣伝に使うことは必至です。上記要望書の要望を全く無視したものというほかなく、当連絡会としては深く失望し、今後の被害の拡大に強く憂慮しております。

 安倍先生が、日本国内で多くの市民に深刻な被害をもたらし、家庭崩壊、人生破壊を生じさせてきた統一教会の現教祖である韓鶴子総裁(文鮮明前教祖の未亡人)を始めとしてUPFつまり統一教会の幹部・関係者に対し、「敬意を表します」と述べたことが、今後日本社会に深刻な悪影響をもたらすことを是非ご認識いただきたいと存じます>

 新たに「深刻な悪影響」を受ける被害者を生まないためにも、統一教会の動向には注意が必要といえよう。

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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