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木村誠「20年代、大学新時代」

東大発ベンチャー「テラ」の栄光と挫折に見る大問題…赤字だらけの厳しい実態

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
東京大学医科学研究所(「Wikipedia」より)
東京大学医科学研究所(「Wikipedia」より)

 国立大学が法人化した2004年に、東京大学医科学研究所のベンチャー企業として設立された「テラ」は、2009年に上場した。そして、2022年8月に自己破産して、18年の歴史に幕を閉じた。

 同社は全国の医療機関にがん治療のノウハウを提供する事業で、2012年には年間で約15億4400万円の収入を確保した。初値300円だった株価は、2013年4月には4000円を突破した。まさに、大学発ベンチャーの花形企業の一つであった。

 ところが、その後は研究開発費の負担も重なり、2014年12月期決算からは赤字に転落。2018年には創業者の社長を解職した。社内規定に反して、持ち株を大量に売却したことなどが理由だ。

 2015~17年の有価証券報告書に「重要な取引」を記載しておらず、2020年には金融庁から2億2385万円の課徴金納付命令を受けた。ガバナンスが効いていない実態が明らかになった。

 株式に関して、ネット上には「テラ経営陣は株価を高値に吊り上げて売り逃げ、爆益を得た」と揶揄する声も聞こえる。

大学発ベンチャーの厳しい実態

 経済産業省の大学発ベンチャーに関する2021年度調査で、ベンチャー数上位の20校を見てみよう。

 東京大学329社、京都大学242社、大阪大学180社、筑波大学178社、慶應義塾大学175社、東北大学157社、東京理科大学126社、九州大学120社、名古屋大学116社、東京工業大学108社、までが10位だ。まあ、これは予想できるベスト10だろう。

 11位以下になると、予想外の顔ぶれも入ってくる。早稲田大学100社、デジタルハリウッド大学99社、立命館大学87社、広島大学61社、北海道大学57社、岐阜大学57社、九州工業大学43社、神戸大学42社、龍谷大学42社、会津大学39社である。

 その大学がベンチャーに意欲的かどうかで、数に差が出てくるといえる。ただ、大学発ベンチャーはスタート時には勢いがあるが、持続的発展は難しい。それは、東大の「テラ」の事例でもわかることである。

 たとえば、同調査で回答した企業354社のうち、売り上げゼロが22%の79社もある。これは“開店休業中”というのが実態であろう。もっと多いのは、売り上げが1000万以上~5000万未満の会社で109社、全体の31%である。また、売り上げ1000万未満は68社で19%だ。これは一人分の人件費程度の売り上げで、実質的に維持管理費を賄えるかどうか、というレベルである。

 これが営業利益ともなると、もっと悲惨だ。ゼロが27%の95社で、ゼロ未満の赤字は39%、140社になっている。そのうち赤字1億円以上が10%の34社もあるのだ。そもそも営業利益が出ているベンチャーは34%、119社にすぎず、全体の3分の1である。そのうち1000万未満が22%、76社も占めている。1000万以上の営業利益をあげている大学発ベンチャーは、わずか12%なのだ。

中国も注目した佐賀大の次世代半導体研究

 私は個々の大学経営の積極性の指標として、大学発ベンチャーの数を挙げてきた。しかし、実情から見ると、起業という視点だけでなく、今後はその社会的需要を踏まえた持続性こそを重視する必要があると思う。

 たとえば、佐賀大学は、次世代の究極のパワー半導体といわれるダイヤモンド半導体デバイスを作製し、世界最高の出力電圧、電力の記録を更新したという。その研究実績をベースに、同大学はアダマンド並木精密宝石株式会社(本社:東京都)と共同で、ダイヤモンドの大口径化と半導体デバイスの周辺技術の高度化を進めている。

 ダイヤモンド半導体デバイスは、放熱性、耐電圧性、耐放射線性に優れており、地上だけでなく宇宙空間でも安定的に作動させることができる。まさに次世代の半導体といえる。この研究の成果は、世界的に権威ある米国電気電子学会(IEEE)のElectron Device Letters誌に掲載された。

 朝日新聞の記事によると、その記事掲載の1週間後に中国の大手企業から「共同研究をしていただけませんか?」というメールが佐賀大の論文発表の責任者である教授に届いたという。さすが中国企業、機を見るのに敏である。しかし、佐賀大の教授はやんわりと断ったそうだ。

 その点、日本の大企業や国はのんびりしている、と思える。中国企業ほどのチャレンジ精神がない。ただ、これからも漫然と大学任せにしていては、過去に先駆的だった日本の半導体企業が米国や中国に出し抜かれたときの二の舞いになりかねない。玉石混交の大学発ベンチャーから金の卵を見つけ、育てる体制づくりが急がれる。

大学発ベンチャーのサポート組織を作るべきだ

 企業経営に慣れていない大学がベンチャーの持続的発展を担うのは難しい。かといって安易に民間企業に頼ると、むしろ傷口を広げることにもなりかねない。

 たとえば「テラ」では、このようなケースがあった。2020年に「テラ」が医薬品関連会社のセネジェニックス・ジャパンと提携して、メキシコでコロナ新薬の臨床研究を始めると発表すると、株価は約12倍に急上昇した。ところが、東京証券取引所は「提携の経過に不明確な情報が生じている」と注意喚起した。「テラ」はセネ社の情報を十分に確認せずに開示し、セネ社の業務の監督も適切にしていなかったことが判明したのだ。

 また、セネ社の元経営者は株価上昇を狙って「テラ」に虚偽の発表をさせた疑いで、金融商品取引法違反(偽計業務妨害罪)で逮捕されている。

 民間企業は営利目的であり、合法であれば手段を選ばない。その企業との協働や連携によって、大学発ベンチャーが正当なガバナンスで持続的な発展をするのは容易ではない。しかし、現状を放置していたら、赤字の超零細大学発ベンチャー企業を生み出すだけである。また、逆に佐賀大のようなケースも、せっかくの機会を外国企業に与えることになる。

 今こそ大学の主体性を尊重しつつ、企業として世に貢献する大学発ベンチャーをサポートする組織を、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学連盟、日本私立大学協会などが文部科学省や経済産業省、また多くの大学と連携して立ち上げるべきだ。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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