ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 東工大と東京医科歯科大が経営統合?
NEW
木村誠「20年代、大学新時代」

東工大と東京医科歯科大の統合協議で到来か?東京の国立大学に迫る“合従連衡時代”

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
東京工業大学の大岡山キャンパス本館(「Wikipedia」より)
東京工業大学の大岡山キャンパス本館(「Wikipedia」より)

 東京工業大学東京医科歯科大学が、2022年8月9日、統合に向けた協議を始める方針を正式発表した。この都内の2大学は理工学系と医療系でそれぞれ国内トップクラスだけに、特ダネ争いを繰り広げるマスコミにとっては、ビッグニュースになった。報道された後に、両大学はそれぞれのウェブサイトにて統合協議開始を正式発表した。現時点では決定された事項はなく、最終決定に至るまでは今後の両法人による協議に委ねられることになる。

 ともに国立大学トップクラスの指定国立大学法人だけに、確かにビッグニュースである。指定国立大学法人は、2021年の時点では、東北大学、筑波大学、東京大学、東京医科歯科大、東京工業大、一橋大学、東海国立大学機構名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の10校である。

 歴史と伝統を有する両法人の統合検討は多面的な検証を要する判断が必要で、両法人の構成員が広く参加した議論と検証が不可欠であることを、ともに強調し、今後の統合に向けた検討を加速化するために両大学の構成員に統合協議開始を報告したとしている。いつまでに何を決定するか、具体的な日程は定かではないが、今後はより多くの構成員の意見を聞きながら集中的に協議を進めていくとしている。

 この構想の背景には、政府の10兆円規模の大学ファンド(基金)による支援を受けられる「国際卓越研究大学」の指定を目指すことがある。国際卓越研究大学とは、世界トップレベルの研究力を目指す大学を支援する大学ファンドの選定校である。そのファンドでは10兆円規模の公的資金を原資に年間3000億円の運用益を出し、その資金を活用して、選定した国際卓越研究大学に支援する。計画通りに進めば、2024年度から、国際卓越研究大学1校あたり数百億円規模のファンド運用益を配分することになる。

 この国際卓越研究大学を選ぶ基準として、(1)国内外の優秀な博士課程の学生を獲得、(2)世界トップクラスの研究者が集う研究領域の創出・育成、(3)若手研究者が独立して活躍できる場の提供――などが挙げられている。

 支援が決まった大学は、主に学外者らでつくる経営意思決定機関を新たに設ける。その監督下で、独自に行う企業との共同研究による民間資金の確保や寄付金などによる外部収入などを活用して、年利3%の事業成長が求められる。確かに、その大学にとって、数十億円以上の資金を研究活動に使えるメリットは大きい。国立大では、現在のところ、他に東京農工大学が名乗りを上げている。私立大では早稲田大学の総長が応募することを公言している。果たして選考結果がどうなるか、興味深い。

 ただ、指定国立大学法人といい、この国際卓越研究大学といい、批判も多い。ともに大学政策における「選択と集中」政策で、地方国公立大や私立大を実質的に軽視することになるからだ。地方創生の主役と期待される地方国立大にとっては、「大学間格差の固定化につながる」という懸念が残る。

完全統合より「アンブレラ方式」の可能性大?

 国立大の統合では、大阪大学と大阪外国語大学のような完全統合や、経営は統合するが教育研究は独立性を保ち複数大学が存立する、いわゆるアンブレラ方式がある。後者は一つの大学経営のもとに複数大学が所属するので、傘すなわちアンブレラと名付けられている。

 この方式で、2020年に名古屋大学と岐阜大学が運営法人を統合して東海国立大学機構を、2022年に小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の北海道の3大学が運営法人を統合して北海道国立大学機構を立ち上げ、また同年に奈良教育大学と奈良女子大学が経営統合した。

 東京工業大東京医科歯科大の統合が実現するなら、このアンブレラ方式の方が可能性は高いだろう。完全統合より研究・教育の独立性が高いので、教員の抵抗も少ないからである。その上、アンブレラ方式なら、のちに別の国立大学法人が参加することも可能になるからだ。

 東京工業大は理学院や工学院、生命理工学院、情報理工学院、物質理工学院などを擁し、約5000人の学部生と大学院生約5500人が在籍している。医学部と歯学部を持つ東京医科歯科大の学生は、約1400人である。

 2021年度に国が国立大学法人に拠出した運営費交付金は、東京工業大が218億円、東京医科歯科大は138億円だった。統合すれば「理系の総合大学」が誕生すると、前評判は高い。もともと総合大学とは、人文科学・社会科学・自然科学の3つの学問領域があり、総合的な教育研究を行う大学のことであったが、今では複数の違う領域の学部を擁していれば総合大学と呼ぶことも多い。

 しかし、データサイエンスなど文理融合型の領域が拡大していく中で、理系にこだわっているようでは突破力が弱い。社会科学系や外国語を含む人文・社会科学系などの大学の参画があってこそ、異種効果が望める。長期的視点から考えても、国際卓越研究大学応募という短期的な視点より、異領域の分野の大学が参入できるアンブレラ方式の方向が、教育研究の上でもメリットが大きい。

東大に対抗?20年前の「4大学連合」

 2004年度からの国立大学法人化を控えていた当時、トップクラスの国立大も含め、国立大関係者は将来に不安を抱えていた。当時の東京外国語大、東京工業大、一橋大の学長が会合で話し合いの場を持つうち、「単科大学が連携すればおもしろいことができるのではないか」という思いで一致した。その後、東京医科歯科大と東京芸術大学の学長も加わって、1999年秋には、この5大学の学長による大学連合構想が公表された。

 マスコミも「東京大学を上回る多彩な新大学の誕生か?」と大騒ぎになった。しかし、個性的な教員の多い東京芸術大の教授会が反対し、次に東京外国語大も学内で反対が多く、意見がまとまらない。共通しているのは、それぞれの分野で東京大学のライバルとなる学部がないことだ。東京大学芸術学部構想もあり、東京芸大には選択肢がいろいろあったこともあり、あまり東大への対抗意識がなかったのではなかろうか。

 その点、残る東京工業大・一橋大・東京医科歯科大は、東大だけでなく他の旧帝大系の総合大学との競争力においても、法人化で危機感が共有されたと思われる。

 2001年になり、東京外国語大が復帰し「四大学連合憲章」が各大学の学長により調印され、四大学連合が正式に始まった。教育・研究・国際化について各大学が協力し、連合による事業が実現した。4大学間で行われる複合領域コース(特別履修プログラム)で、コース履修生が他大学でもっと学びたいという場合のために、複数学士号の制度ができた。5~6年かければ2つの学士が取れる、ダブルディグリーの国内変形版といえるかもしれない。

 こうした実績と背景があったからこそ、今回の東京工業大と東京医科歯科大の統合構想が生まれたのであろう。

東京の国立大に合従連衡時代が来るか

 ただ、この動きは両大学の経営統合だけでは収まらないという見方も強い。2019年に大学統合が注目されたときに、「週刊朝日」(朝日新聞出版)の取材に、元東京外国語大学長の亀山郁夫・現名古屋外国語大学学長は次のように語っている。

「カリスマ的な学長が現れれば、統合はありうる。4大学に限らず、東京芸術大、東京農工大、電気通信大、東京学芸大も巻き込んでもよいのではないか。統合ができるところから始めればよい。文部科学省や財務省の主導ではなく、ビジョンを持った学長が主導するべきです」

 実は、このうち東京農工大の千葉一裕学長は、大学ファンドの国際卓越研究大学に応募することを明言している。しかし、カリスマ的な学長の登場を待っているのでは遅いし、プライドの高い大学教員を総結集するには時間と政治力が必要だ。

 それより教育研究の上で他大学と連携した方が効率的という判断で、実績を積み重ねていく方が現実的だろう。たとえば、東京工業大は新しいエネルギー社会を変革・デザインする卓越人材の育成プランを持っているし、東京医科歯科大はAI創薬などのプログラムを展開するためにデータサイエンス系の人材を育成しようとしている。

 これらの人材育成も、アンブレラ方式で他大学との経営統合が実現すれば、よりスムーズに進むであろう。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

東工大と東京医科歯科大の統合協議で到来か?東京の国立大学に迫る“合従連衡時代”のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!