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合格の男子と同じ点数でも不合格…東京都立高校「男女別定員」残存の複雑な事情

取材・文=うらま/A4studio
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「gettyimages」より

 東京都教育委員会の今年7月の発表によると、男女別定員を設けている東京都立高校の今春の入試で、純粋な成績順で合否を決めていた場合、不合格だった女子284人が合格していたはずだったことがわかったという。

 全日制168校のうち普通科109校が男女別定員を設けているが、例えば全体的に女子のほうが優秀な場合、男子がギリギリで合格できた点数と同じ点数を取った女子がいても、女子側の定員数の問題で不合格になってしまうという事態が発生するわけだ。

 全国でこのような男女別定員が残るのは東京都のみ。今後、男女別定員は段階的に廃止される予定だが、現在では性別で合否を左右された生徒が多いことが明らかになったかたちだ。そこで今回は、大学ジャーナリスト・石渡嶺司氏に、受験における男女不平等の実態や、問題を解決する手立てについて解説してもらった。

もともとは現在と逆の状況で女子を合格させやすくするための制度

 そもそも、なぜ男女別定員制なる制度が生み出されたのか。

「日本で初めて都立高が共学化したのは1949年。アメリカの教育使節団から男女共学化を勧告されたことをきっかけに決定しました。時勢柄、もともと男子校であった都立高に合格できるほど好成績の女子はごくわずか。そのため女子の合格者数を増やす目的で男女の定員数をあらかじめ決めるというのが、男女別定員の始まりです。

 とはいえ、1954年時点における高卒後の4年制大学進学率は男子13.3%、女子2.4%という状況だったため、都立校は4年制大学へ進む確率の高い男子を多く募集していたのも事実です。一方で、女子高の多い私立校は進学者数確保のために女子を募集するといったように、住み分けが図られていました」(石渡氏)

 要するに都立高で男女別定員が設けられたきっかけは、現在と逆の状況で女子を合格させやすくするためだったということのようだ。では、いつから廃止の声が高まったのか。

「女性の社会進出が注目されはじめると、1988年には『東京都の男女平等教育を実現する連絡会』が東京弁護士会に人権侵害救済を申し立てています。そして、1990年には男女別定員を話し合う東京都の検討委員会が撤廃を提言するなど、男女別定員撤廃へ向けて動きがありました。ですがその後、対策の制度や緩和措置などがたびたび決まりましたが、小手先の改善といった感があり、結局のところ男女別定員の完全撤廃まで至らずに問題が棚上げにされてしまっていたのです。

 しかし、2018年に東京医科大学などで起きた医学部不正入試における女子受験生差別問題をきっかけに、都立高男女別定員撤廃にも再び注目が集まるようになりました。まず、小池都知事が廃止を示唆するコメントをしていましたし、2021年にはNHKが番組でこの問題を取り上げてもいました。また、参議院で吉良よし子議員が問題提起し、萩生田光一文科相(当時)が『是正に向け努力したい』と答弁を行うなど、かなり強い影響を与えたことも。そういった背景もあってか、最近では世論も男女別定員撤廃の高まりを見せており、市民団体がネット署名約3万筆を集めて提出し、結果として都教育委員会が段階的な廃止を発表するまでに至ったのです」(同)

 こうした問題だが、あきらかに性差別と言えるものなのではないだろうか。

「これは性差別以外のなにものでもないでしょう。海外で類似の制度が定められている国もありますが、先進国の日本、しかも首都である東京でこのような制度が続けてこられたこと自体、何かの間違いではないかと思いたくなるほど重大な差別問題だと感じます」(同)

保守的な教育業界のなかでさえ、男女別定員制が続くのは東京だけ

 なぜ東京都にのみ、こんな時代錯誤な制度が残ってしまっているのか。

「東京のみ残っている理由は、実質的に都教育委員会と私立中高が話し合う場である協議会の存在が大きいといえます。協議会には、東京には私立の女子高が多いため、都立校が一定の定員数を設けることで、私立の女子校の経営が傾かないようにしていたという、ある種の共存措置を図ってきた背景があり、これを理由に男女別定員を続けていたのです。

 ですが近年は少子化の時代で女子高も共学化が進んでいます。さらに、現在の4年生大学進学率は男女ともに50%を超えているため、女子は4年制大学への進学率が低いから募集枠も少なくていいという、男女差別的なかつての理屈は通らなくなっています。そのため保守的な教育業界のなかにある都教育委員会も、ようやく男女別定員の完全撤廃にむけて本格的に動き出し、昨年、段階的な撤廃に踏み切ったというのが現在の状況なのです」(同)

 とはいえ、完全撤廃に向けて段階的に撤廃が進んでいる現在も、男女別に定員が定められていることで不当に不合格になる女子が存在している。なぜすぐに完全撤廃できないのか。

「トイレや更衣室の問題など、女子入学者数の急な増加の対応が難しい学校が多いという事実も否定できません。しかしこういった問題は一時的であるため、男女別定員を維持する理屈としては厳しいでしょう。だからこそ段階的な措置というかたちが折衷案になったということです」(同)

男女平等の教育機会実現には、無意識の偏見をなくす必要がある

 教育業界における今回の男女差別問題は「無意識下の心理作用」による影響も強かったのではないかと、石渡氏は分析する。

アンコンシャスバイアス、すなわち無意識の偏見というものがあります。例えば、男女別の名簿をつくるときに、男子の名前が先にあり、女子の名前が後にあることなどです。そもそも男女で名簿をわける必要はないので、最近では男女別名簿が減ってきていますが、このように『男が先、女は後』という偏見を無意識下に植え付けるような事例はまだまだ多く潜んでいます。結果的に、このアンコンシャスバイアスは女性の社会進出を阻む大きな一因になっていると考えています」(同)

 今後、受験における性差別をなくすためにできることはあるのだろうか。

「アンコンシャスバイアスをいかになくすかが重要だと思います。料理は女子がやるべき、体育祭の応援団長は男子がやるべきなど、無駄に男女の役割をわける時代はかつてのものです。また、理工系は男子の進学先、といった認識もアンコンシャスバイアスといえるでしょう。理工系へ進む女子はまだ男子と比べて少ないですが、今や理工系へ進む学生は社会において需要が高いため、今後は性別の関係ない進学先になるはずです。

 昔からの慣習や育った環境によって、アンコンシャスバイアスは誰もが持ちうるものですが、そういった先入観をひとつずつつぶしていく必要があると思います。ですから、まずは学校教員や保護者などの教育に携わる方々が、意識的に偏見を取り払ったうえで進路やキャリアを考えていけるようになるといいでしょう」(同)

 男女別定員のような差別のない教育を実現するためには、自分自身が無意識のうちに偏見を持っているという自覚をして、子どもたちの未来を考えていく必要があるのかもしれない。

(取材・文=うらま/A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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