『舞い上がれ！』で阪神淡路大震災が描かれなかった理由…史実への忠実性を優先

「空への夢」を抱き「飛ぶことを諦めない」ヒロイン、岩倉舞（福原遥）の奮闘と成長を描くNHK連続テレビ小説『舞い上がれ！』。21日放送回では作中で阪神淡路大震災（兵庫県南部地震、1995年1月17日）がどうのように描かれるのかが注目されていたが、“描写そのものがない”という驚きの展開となった。

　21日の放送は第3週『がんばれ！お父ちゃん』の一幕。舞台は一足飛びに1994年から2004年に。8歳だった舞は18歳に成長し、航空工学を学ぶ大学生となっていた。当然、震災の描写はない。最近のNHKの朝の連ドラでは、東日本大震災や阪神淡路大震災がストーリーの転換点になることが多かったこともありSNS上では、放送直後から以下のような声が上がった。

「なんと⁉　阪神大震災とんだ！まさかの描かず。びっくりした」

「阪神大震災のことが描かれる週かと、心して見ていたけれど、ナレーションすらなし。

　フィクションでもあの震災を乗り越えての描写があれば、よりドラマとしてのリアリティと深みが増したのでは？

　想像力が有り余る私としては、最悪の想定もしていたが、順風満帆な10年後に少々違和感」（いずれも原文ママ）

　しかし、Twitterユーザーの間では、舞の実家である町工場が所在する東大阪市の被害は限定的で、大阪市内の市民生活と神戸市内の惨状には大きな差があったという指摘もなされていた。

阪神淡路大震災では大阪府北西部に被害が集中、東大阪は……

　震災時の大阪の状況はどのようなものだったのか。旧総理府（現・内閣府）阪神・淡路復興対策本部事務局がまとめた『阪神・淡路大震災復興誌』の該当部分を参照してみる。

　まず、地震発生時の大阪の震度は4。豊岡、彦根、京都の震度5より低い。

　一方、「府県別死者・行方不明者・負傷者の状況」（消防庁調べ、2000年1月11日時点）によると、大阪府の死者は31人、負傷者は3589人となっている。

「市町村別死者・行方不明者・負傷者の状況」（事務局調べ、同）でその内訳が明らかにされている。死者は大阪市18人、豊中市9人、池田市１人、吹田市1人、箕面市1人、堺市1人。負傷者は大阪市357人、豊中市2496人、池田市168人、吹田市21人、箕面市63人、堺市50人という状況で同府北西部と淀川下流が被害の中心となったようだ。

　また、「府県別住家被害の状況」（消防庁調べ、同）によると、大阪府の建物被害は全壊895棟、全焼１棟，半壊7232棟、半焼5棟、計8133棟という状況だった。

『舞い上がれ！』作中の舞台である東大阪市は大阪府内の東南部に位置する。震災の描写をインサートするには、地域の被害実態との整合性からいって難しかったのだろう。

　一方、震災による大阪府内の被害は兵庫県と比べれば少なかったものの、決して「軽い被害」と言える規模ではなかった。被災地域を同府内に限定しても、記憶に新しい北海道胆振東部地震（18年9月6日）に並ぶ被害規模だ。

　同地震はブラックアウトと呼ばれる深刻な「広域停電」と、36人が犠牲になった北海道厚真町の大規模土砂崩れを引き起こした。最終的な死者は43人、負傷者782人、全半壊2129棟（いずれも消防庁調べ、19年8月20日現在）だった。

　震災が『舞い上がれ！』の本筋で直接描かれることはないかもしれない。しかし、震災が阪神地域に大きな影響を与えたことは無視できない。今後、舞の前に震災の影響を受けた人物が登場したり、災害の爪痕をほのめかすようなエピソードが挿入されたりするかもしれない。

（文＝Business Journal編集部）