新興宗教団体「幸福の科学」の創始者で総裁の大川隆法氏が2日、東京都内の病院で亡くなったことがわかった。先月28日に港区の自宅で倒れて病院に搬送され、2日になって死亡が確認されたという、享年66。死因は明かされていない。
国内でも屈指の巨大宗教のトップが倒れた衝撃は大きく、早くも後継者をめぐる報道が盛んになっている。大川氏は地球の至高神「エル・カンターレ」を名乗っていたため、神が消滅するという認識は教団にないとみられ、今後は後継者となる人物に大川氏の魂が降りてくる、あるいは別の人物に生まれ変わるといった形で教団運営が続けられるのではとみられているようだ。
後継者については、29歳年下の妻で教団ナンバー2ともいわれていた紫央さんが最有力とされている。大川氏は前妻・きょう子さんとの間に5人の子どもをもうけたが、長男で現在はYouTuberとしても活動する宏洋氏が「デイリー新潮」(新潮社)のインタビューで語ったところによると、宏洋氏と一番下の妹は脱会、次男と三男は音信不通で教団運営に携わっておらず、長女は2代目総裁が内定していたものの「最近、地方に左遷された」という。
となると、やはり当面は紫央さんが後継者となって教団を率いていくとみるのが妥当だ。だが、そうすんなりいくかは不透明で、大川氏の莫大な遺産をめぐる問題が浮上している。
法的には、年収数億円といわれた大川氏の個人の遺産は現在の妻が半分、残りが5人の子どもに均等に相続されることになるが、その一方で教団の資産は2000億円にのぼるともいわれる。幸福の科学は宗教法人なので資産は課税対象にならず、そのままの額が引き継がれるため、この巨額の資産をめぐって後継者問題が混沌化し、カリスマを失った後に起こりがちな「分派・分裂」といった事態になるおそれもある。
実際、宏洋氏は先述のインタビューで「私には別れた妻との間に子供がいますので、子供のためにも自分の権利についてはしっかり主張していくつもりです」と明言しており、自身のTwitterでもジムでトレーニングしている写真と共に「遺産相続戦争が始まるので戦闘力を高めています」とツイートしている。
大川氏の死去によって意外な余波も生まれている。幸福の科学といえば、興行収入17億円を記録した『黄金の法 エル・カンターレの歴史観』をはじめ、大川氏が原作などを手がけた多くのアニメ映画や実写映画を製作してきた。信者が大量にチケットを購入することもあって、大半の作品が興収ランキングで上位入りするなどヒットしている。
これが映画業界を潤していたという事実もあり、映画評論家で翻訳家の柳下毅一郎氏は2日付のTwitterで「地方の小さい映画館は幸福の科学映画で食い扶持を確保して、自分の好きな映画を上映しているところもある」という意見を引用しつつ、「この問題があるんで、アート映画にも無縁ではないんですよ。映画館の生態系自体に影響がある」と指摘した。また、アニメの制作スタジオなども幸福の科学の仕事を請け負うことで利益を確保していたところもあり、大川氏の逝去によって教団の映画事業が停止するようなことがあったらエンタメ業界に衝撃が走りそうだ。
大川氏が原作・企画を担当した新作実写映画『レット・イット・ビー ~怖いものは、やはり怖い~(夢判断、そして恐怖体験へ2)』は予定通りに5月12日に公開されるというが、教団側は一部メディアの取材に「遺作ではない」としている。どのような意図の言葉なのかは不明で、今後の見通しは何ともいえないところがある。いずれにしても、大川氏の逝去は宗教界だけでなく、エンタメ業界など多方面に影響を及ぼしそうだ。