トランス脂肪酸のリスク評価については、12年3月に食品安全委員会が食品健康影響評価書を発表した。その概要は、次のようなものである。
「トランス脂肪酸の過剰摂取は、
・冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症等)を増加させる可能性が高い。
・肥満、アレルギー性疾患(ぜんそく、アレルギー性鼻炎等)について、関連が認められた。
・妊産婦・胎児への影響(胎児の体重減少、流産等)について報告されている。ただし、これらは平均的な日本人よりトランス脂肪酸の摂取量が多いケースの研究」
「日本人のトランス脂肪酸の摂取実態と健康影響。
・日本人の大多数はWHOの目標を下回っている。通常の食生活では、健康への影響は小さい。
・ただし、脂質に偏った食事をしている人は留意する必要あり。
・脂質は重要な栄養素。バランスの良い食事を心がけることが必要。
・食品事業者においては、食品中のトランス脂肪酸含有量は近年減少傾向にあるが、一部製品は高いものが見られることから、引き続きその低減につとめる必要がある。
・リスク管理機関においては、今後とも日本人の摂取量について注視し、知見の収集や適切な情報提供が必要」
要するに食品安全委員会は、日本人は通常の食生活をしていれば、トランス脂肪酸による健康への影響は小さいから、特段の政府による規制措置は必要がないとの判断である。
●世界的なトランス脂肪酸対策から立ち遅れ
このような食品安全委員会の見解が、世界的なトランス脂肪酸の使用規制、表示義務化の流れから見ても、そのリスク評価のベクトルが消費者の健康保護の方向に向いているとはとてもいえないし、世界的なトランス脂肪酸対策から立ち遅れているといえる。
消費者は表示義務がない中で、一体どの食品にどの程度のトランス脂肪酸が含有されているかも知ることができない状況に置かれており、ましてや「脂質に偏った食事をしている人は、留意する必要がある」としても、そのような人はトランス脂肪酸表示義務がない中で留意のしようがない。
また、使用規制がないために、食品事業者の中には前述のようにトランス脂肪酸が含まれているショートニングを平気で使っている事業者がいるし、市販のマーガリンの中でも、毎朝パンに塗るだけで平均摂取量の2倍近く取ってしまうほどトランス脂肪酸の含有量が高いものが流通している。
日本人の通常の食生活も絶えず変化をしており、外食産業、コンビニや冷凍加工食品への依存度が高くなりつつある。当然、トランス脂肪酸にさらされる危険度は高くなりつつあるといえる。
日本においてもトランス脂肪酸の表示の義務化とトランス脂肪酸の使用規制を事業者任せずにせず、法的規制を進めていくことが、先進国として当然の課題といえるであろう。
(文=小倉正行/国会議員政策秘書、ライター)