「もっと客の気持ちを思いやれ」
「自分だったら、もっと丁寧に仕事をする」
など、スーパーの店員や居酒屋店員、タクシー運転手、終電間際の駅員に対して暴言を吐き、あげくは暴力を振るうトラブルが続出している。
そんな中、書店には「お客様の怒り」をどう鎮めるかといったノウハウ本が数多く並び、さらにはクレームがビジネスパーソンを成長させるといった自己啓発本まで出版されている。
雇用される企業による不十分な待遇、労働環境にもかかわらず、消費者からは高いレベルの接客が要求されるという理不尽な状況に陥っている人も多く、ましてや、日本企業の多くは激しい競争にさらされ、「若者を使い捨てて利益を出そう」とするブラック企業の存在も社会問題化している。そんなブラック企業の社員の中には、企業とモンスター消費者の双方から追い詰められ、板ばさみ状態になっている人もいるだろう。
●モンスター消費者がブラック企業を増殖させる
そして、こうしたモンスター消費者がブラック企業を増殖させる一因となっているのではないかと指摘するのは、『ブラック企業VSモンスター消費者』(今野晴貴・坂倉昇平/ポプラ新書、以下、本書)だ。今野氏はNPO法人・POSSEの代表理事で『ブラック企業』(文春新書)という著書もある。坂倉氏は、同法人が発行する雇用問題に特化した雑誌「POSSE」の編集長だ。
本書によれば、例えば量販店のような小売りやファストフードといった低価格競争を繰り広げている産業では「低価格と表裏一体のギリギリの人件費で競争することが、他者との差異化のために客の過剰な要求でも受け入れてしまう働き方につながっている」のではないかという。
つまり、低価格が当然と勘違いしたモンスター消費者は、安価な商品にまで過剰なサービスを求める。企業側も競争を勝ち抜くためには、当然のようにその要求に応えようと、労働者の酷使を厭わなくなっていく。企業が勝ち抜くために「お客様の立場になって考えよ」とサービス残業を正当化し、企業に十分な人員や予算がなくても、社員に際限のない労働をさせてしまう。
その一例が24時間営業のスーパーだ。深夜には責任者に絡んでくるモンスター消費者も急増する。深夜に責任者が確保できないにもかかわらず、消費者のニーズに応えて深夜営業を続けるため、経験の浅い契約社員にでも頼らなくてはいけないため、契約社員は、研修を終えた直後からクレーム対応の最前線に立って接客せざるを得ない。モンスター消費者からのクレームに耐えられず、契約社員が契約の解除を申し出ても、「今逃げちゃだめだ、壁を乗り越えろ」「向き不向きや能力の問題ではない、自分を変えなければいけない」などと精神論を説かれ、なかなか辞めさせてもらえないのだという。
●消費者の成長がブラック企業を淘汰する
一方で、クレームを利用した退職勧奨をするブラック企業もある。正社員を解雇する法規制のハードルが高いと考えるブラック企業は「顧客のクレーム」を持ち出して、「お前はお客様に迷惑をかけていて、会社として非常に困る」などと詰め寄り、自己都合での退職をせざるを得ないように追い込んでいく。しかも、「顧客のクレーム」も会社側が捏造している場合すらあるというのだ。
ブラック企業とモンスター消費者が結託して労働者を精神的に肉体的に追い込んでいく構図。これを変えるには、どうすべきだろうか?