翌日の各紙の1面見出しは、『TPP暗礁』(東京新聞)、『TPP長期化必至』(読売新聞)『日米、TPP平行線』(朝日新聞)、『TPP針路見えず』(毎日新聞)と、一様にTPP交渉が行き詰まっていることを表現した。
TPPは、農林水産業だけではなく食の安全にも脅威を与えるものであり、多くの国民の議論が必要なものであるが、情報はほとんど国民に提供されていない。その脅威とは、輸入関税がゼロになることによる輸入食料の急増と非関税障壁の撤廃がもたらすものである。
(1)輸入食品の急増がもたらす食品検疫体制の機能低下
TPPでゼロ関税となると、米をはじめとして多くの農産物が輸入農産物に置き換わり、国内生産が減少する。
農林水産省の試算で明らかになった生産減少率は、米が90%、小麦99%、大麦79%、インゲン23%、小豆71%、落花生40%、甘味資源作物100%、でんぷん原料作物100%、コンニャクイモ90%、茶25%、加工用トマト100%、柑橘類9%、リンゴ9%、パイナップル80%、牛乳乳製品56%、牛肉75%、豚肉70%、鶏肉20%、鶏卵17.5%となっている。需要が変わらなければ、この生産減少分は輸入に置き換わる。
この試算に基づき生産減少で置き換わる農産物の輸入量を計算すると、1628万2000トンになる。2011年の食品輸入量が3340万7000トンであるから、TPP加入で食品の輸入量は、4968万9000トンに急増し、現在の輸入量の1.48倍になる。
これにより輸入食品の検査体制はどうなるか。
現在、輸入食品の検査は399人の食品衛生監視員によって担われている。この食品衛生監視員による検査は行政検査といわれているが、検査率は、2011年はわずか2.8%であった。また、行政検査はモニタリング検査であり、検査結果が出るまで輸入を認めない検疫検査でなく、検査結果が出るのは私たちの食卓に輸入食品が届いてしまった後になる。
11年は、民間の検査機関(登録検査機関)による検査が8.6%を占めていたため、全体の検査率は11.1%になった。それでも検査率は1割強で、約9割弱の輸入食品は無検査で輸入されていることになる。
このような現在の検査体制でTPP加入により食品の輸入量が1.48倍になれば、全体の検査率は7.5%に落ち込み、行政検査率は1.89%と過去最低の検査率に落ち込むことになる。とても国民の食の安全を守れるような検査率ではない。
本来、日本のような世界一の食料輸入大国では、食の安全の確保のためには水際の輸入食品の検査体制の強化が不可欠である。少なくとも輸入食品の検査率を5割に上げるとともに、食品衛生監視員による行政検査を、「輸入食品の検査結果が出た時点ですでに食卓の上」というモニタリング検査でなく、検査結果が出るまでは輸入を認めないという本来の検疫検査にする必要がある。
このためには、食品衛生監視員を現在の399人から約3000人体制に抜本強化しなければ対応できない。しかし、政府は、このような強化の方向性は持っていない。