(2)危機に直面する残留農薬問題-ポストハーベスト農薬が増加
11年2月1日に外務省は、「TPP交渉の24作業部会において議論されている個別分野」を公表したが、その冒頭に次のような記述がある。
「今後の交渉次第で複数の作業部会の成果が一つの章に統合され、または、『分野横断的事項』作業部会のように作業部会の成果が複数の章に盛り込まれる可能性もある」
ここでは「分野横断的事項」がクローズアップされているが、同事項で検討されているのは、食の安全基準であり、外務省発表文では次のようになっている。
「同一物品に対して適用される基準(例えば食品安全基準)が国によって異なったり、重複する規制が国内規制当局によって適用されたりすることから生じる企業負担を減らすために、今後新たな規制を導入する前に当事国の規制当局同士の対話や協力を確保するメカニズムの構築を目指す」
これは、TPPで企業負担を減らすために、食品安全基準の規制緩和を進めようというものであり、特に輸出国の残留農薬基準を輸入国に適用させようという狙いが明らかである。ここで注目されるのが、米国通商代表部の「2010年外国貿易障壁報告書」である。この報告書は、「米国の貿易に対する重大な障壁となるこれら特定の種類の措置及び慣行を確認し、撤廃しようとする本政権の努力を明示している」(出典:衆議院農林水産調査室仮訳。以下同)文書だが、米国政府として、自国にとって「重大な障壁となる措置」を貿易相手国に撤廃させようとしているものである。
この報告書では、「日本は、ポストハーベスト(収穫後)に使用される防カビ剤を食品添加物として分類し、これに対して完全に独立したリスク評価を受けるよう要求している。(略)さらに、日本の食品表示法は、ポストハーベスト防カビ剤を含むすべての食品添加物の販売の小売時点における告知を要求している。(略)このような要求事項は、日本の消費者が米国産品を購入することを不必要に妨げている」と、ポストハーベスト防カビ剤の食品添加物扱いをやめるよう要求している。
さらに、農薬の最大残留基準値についても「日本がコーデックスの国際基準に合致した基準値の実施措置を導入するよう、米国は日本に対して強く求め続ける」としている。コーデックスとは、FAO(国際連合食糧農業機関)・WHO(世界保健機関)の世界食品規格を策定する国際機関で、WTO協定で国際基準と位置づけられている。
ポストハーベスト防カビ剤は、柑橘類に使われているOPPとTBZ、OPPナトリウム、ジフェニール、さらに柑橘類とバナナに使われているイマザリルの5品目である。これらが食品添加物から外され残留農薬扱いになれば、食品添加物表示から外れることになり、輸入柑橘類やバナナにおけるポストハーベスト防カビ剤の存在がわからなくなる。
また、残留農薬として使用量が増える可能性があるのに加えて、農薬の最大残留基準値についてコーデックスの国際基準に合致した基準値を導入したらどうなるか。ちなみにコーデックスの残留農薬基準は、ポストハーベスト農薬の使用を前提としたものである。収穫後の農薬使用であるから、農薬残留水準は高い。このコーデックス残留農薬基準がすべての農産物に導入されれば、ポストハーベスト農薬をいくら使ってもなんの問題もなくなる。
TPPに加入すれば、このような米国政府が要求している食品安全基準の緩和やポストハーベスト農薬の使用規制緩和が、TPPによる企業負担を減らすメカニズムによって否応なく迫られることになる。