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恵庭OL殺人事件に冤罪疑惑 有罪ありきのずさんな捜査と裁判に、元裁判官も唖然

文=瀬木比呂志/明治大学法科大学院専任教授、元裁判官
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●唖然とする裁判所の証拠認定

 実は、私は、この事件の再審請求に対する裁判所の決定が出る前に、札幌テレビから取材を受けていた。その際、事件についてざっと調べた上で、「被害者死亡後にその生存偽装工作を目的として発信されていた被害者の携帯電話からの発信記録が容疑者の足取りにおおむね一致するという証拠が、本件における唯一の重要証拠でしょう。しかし、この証拠が堅いものなら、再審開始は難しいのでは?」と記者に告げていた。「いや、その証拠もそんなに確実なものではありません」というのが記者の答えだった。私は、取材では、事件とは離れ、裁判官や司法制度に関する一般論だけを述べた。

 しかし、再審請求棄却決定の後、報道をみると、種々不審な点があり、学者の同僚たちからも同様の意見を聴いたので、決定を取り寄せ、関連の書物や記事等についても読んでみた。その結果は、唖然とするようなものだった。

 民事系の裁判官であった私の民事訴訟における感覚からしても、検察が証明責任を果たしているとは思えない。まして、これは、民事よりも証明度のハードルが高い刑事訴訟なのである。しかし、この事件に携わってきたすべての裁判官たちは、そのような不十分な立証を容認してきたのだ。

「本当にこの証拠で有罪にしたのか。また、再審開始もできないというのか。刑事裁判というのは、一体どういうことになっているのか」というのが、私の正直な感想であった。

●自白や物的証拠はなし、あるのは情況証拠のみ

 この事件については、中心となった弁護士で、家裁調査官、衆議院議員の職歴もある伊東秀子氏による『恵庭OL殺人事件――こうして「犯人」は作られた』(日本評論社)がある。再審請求に携わっている弁護士が、その過程でこうした書物を発表するのは、よほどの事情があることを示している。もっとも、私も、元裁判官であり、前記の棄却決定も出ているので、この書物については、まずは徹底して批判的に読んでみた。しかし、過度に容疑者に寄り添った記述はほとんどなかった。あえていえば、容疑者が被害者に対してその生前にかけていた無言電話の動機につき、困惑の結果であり、いやがらせの意図まではなかったとしている点くらいであろうか。しかし、ここは内心の微妙な問題であり、全体の中でみれば、小さな事柄にすぎない。

以下の記述は、主として伊東書により、また、私の考えを付加する場合にはそのことがわかるようにしている。

 この事件については、容疑者は、やはり最初の時点では神経科に入院しなければならないほどの恫喝的な自白の強要を受けたにもかかわらず、一貫して否認している。そして、犯罪と容疑者を結び付ける直接証拠は一切存在せず、存在するのは情況証拠だけである。

 まず、私が裁判官としての経験からそれらの中で唯一重要なものと考えたところの、被害者の携帯電話からの発信記録について検討してみよう。この被害者の携帯電話は、事件後に、何者かによって、容疑者と被害者の勤務していた会社(以下「本件会社」という)の被害者のロッカーに戻されていた。

 検察の主張は、この携帯電話からの7回の発信(3月17日0時5分31秒から3時2分38秒まで)の宛先が、容疑者が交際していた男性の当時紛失中の携帯電話など本件会社の従業員しか知りえないものであることと、その発信記録が容疑者の足取りにおおむね一致することとを根拠としている。

 しかし、そもそも、「被害者の生存偽装目的」での発信という検察の主張は「発信履歴が消されていた」という事実と矛盾していて疑問であると弁護側は主張する。そのとおりであろう。また、私は、容疑者にとってそのような偽装を行うことにどのようなメリットがあったのか自体定かではないと思う。見晴らしのよい雪原(北海道なので3月には雪がある)の農道脇に死体を放置した以上、それがその場所で早晩発見されることは明らかであり、現に翌朝発見されているからである。

『絶望の裁判所』 本書は、一人の学者裁判官が目撃した司法荒廃、崩壊の黙示録であり、心ある国民、市民への警告のメッセージである amazon_associate_logo.jpg

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