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恵庭OL殺人事件に冤罪疑惑 有罪ありきのずさんな捜査と裁判に、元裁判官も唖然

文=瀬木比呂志/明治大学法科大学院専任教授、元裁判官
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 また、当時の携帯電話には所在位置を特定させるGPS機能は付いておらず、所在方向を示すだけ(基地局からみた携帯電話の所在地が60度以内の方角で判明するだけ)であり、したがってその「所在方向」自体にどれだけの意味があるのかもいささか疑問であり、のみならず、その発信履歴を子細にみれば、大まかにいえば容疑者の足取りと一致しているともいえるものの、そうはいえない部分も存在する。

 さらに、被害者殺害後、その携帯電話の発見時(3月17日午後3時5分)までの着信履歴17回のほうには、容疑者がずっとその携帯電話を持っていたとすればその足取りからしてありえない「電源断あるいはエリア外」の時間帯があることも大いに疑問である。容疑者が携帯電話を持っていたのなら一時的に電源を切る理由はなく、また、詳細な説明は省略するが、彼女の足取りからすれば「エリア外」はありえないからだ。

 伊東弁護士は、以上のような発信履歴、着信履歴について、「本件会社で働いていた男性を含む複数男性による強姦、殺人、死体損壊」の可能性を視野に入れるなら、犯人の一人が携帯電話を持って移動した場合の移動に見合った発信履歴、着信履歴とみるほうがより自然であると主張するが、これも、そのとおりであろう。

 また、電話の宛先については、携帯電話の着信履歴とメモリーダイヤルを見てかけられた可能性が高く、したがって、宛先についても、容疑者でなければかけられないようなものではないという(以上につき、伊東書32頁、133頁以下)。

●不審人物の存在

 なお、伊東書によれば、実際、本件会社には、かなり不審な人物が存在し、怪しい内容の供述調書が取られているという。同書63頁以下と48頁では、次のように述べられている。

 この人物の事件当夜のアリバイは妻しか証明できず、この人物は、問われもしないのに、女子更衣室のロッカーから自分の指紋が出てくるはずであるとして、その理由(素手でそのロッカーを運んだことがある)について語っており、容疑者の交際していた男性に対しては徹底的な敵対感情を持っていると供述している。さらに、事件から23日後の4月8日に、マスコミ関係者がいるかどうか確かめに容疑者方に行こうとし、そのアパートの前で彼女に会ったが、なぜか、「会ったことを内緒にしてくれ」と言って別れたと供述し、また、4月14日の容疑者の任意同行時に、彼女は小柄で犯人とは思えず意外だという気持ちと、彼女一人ではできないのではないかという思いから、「うちの職場からこうやって連れて行かれる人はまだまだ出る」と同僚に話した、とも供述している。なお、この人物が容疑者と会った4月8日の夜に、彼の歩いていたあたりの草むらから、事件の後に紛失していた「容疑者の携帯電話」が出てきたという事実もある。

 それ以外の情況証拠の主なものは、容疑者が事件の前日の夜に10リットルの灯油を買っていること、被害者の携帯電話がそのロッカーに戻されていたこと、警察の捜査によれば被害者のロッカーキーが容疑者の車のグローブボックスから出てきたとされていること、容疑者の車の左前輪タイヤの傷(検察は炎の熱によるものと主張)、4月15日に容疑者の家から3.6km離れた森から被害者の焼かれた遺品が出てきたことである。これらについて、簡単に触れていこう。

 まず、容疑者が事件前夜に10リットルの灯油を買っていることは事実である。彼女は、自分が疑われていると聞いて動転し、車のトランクに入れたままだった灯油を容器ごと捨ててしまい、自分にとって有利な決定的な証拠を、みずから消滅させてしまった。この事実と、彼女が被害者に無言電話をかけていた事実を隠していたこととが、裁判で彼女に不利に作用することになる。しかし、考えていただきたいが、これらの事実だけでは彼女と犯行を結び付けるにはとても足りない。冤罪事件では、容疑者に、何らかの不利な事情、あるいは、軽微な余罪等がある場合が多い。だからこそ、警察の見込み捜査のターゲットにされることにもなるのである。

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