東日本大震災をきっかけに、「価値観が変化した」「人生が変わった」と感じる人は多いのではないでしょうか。
『それでも彼女は生きていく』(山川徹/著、双葉社/刊)は、震災がきっかけでAVの世界へ足を踏み入れたという女性7人のルポルタージュです。テレビなどでは取り上げられることのない、彼女たちの現実。これもまた、震災が生み出した一つの現実ではないでしょうか。
本書で紹介されている小宮さん(仮名)は、震災当時、18歳でした。
大学入学をひかえ、はじめてのひとり暮らしにワクワクしていた矢先の被災。なんとか授業は始まったものの、実家から電話があり、父親の会社が流され、今後どうなるかわからない、だから仕送りができない、と伝えられました。
いままでお金で苦労したことがなかった小宮さんは悩んだ末、AVのオーディションを受けることにします。
「待ち合わせのホテルに行くか、行かないか。面接までの三日間、とても悩みました。でも、生活を続けて学校を卒業するためには、どうしてもお金が必要だったので……。いま振り返ると、私、まともな状態じゃなかったのかもしれません。お父さんの仕事がなくなって、学校で家や家族を亡くした友人達と出会って……。たぶん、混乱していたんだと思います」
AV女優をはじめて数カ月、結構な金額を貯金できたものの、彼女はAV女優を辞めることはありませんでした。AVに対する抵抗感が大きかった反動か、割り切れたからか、あるいは彼女の性格に合っていたのか……。彼女は、AV女優という仕事にどんどん順応していったのです。
AV女優を選んだことについて、彼女は「後悔しているわけではない」と言います。
「あのとき、自分がどんな気持ちだったのか。あまりにも慌ただしすぎて、よく分からないんです。友達に話して自分の考えを整理する機会もありませんでしたから。たしかに震災がなければ、AVには出ていなかった。でも、AVに出たからこそ、今の自分がある。震災で自分の人生は大きく変わったんだなと思います」
本書で取り上げられるAV女優たちは、口をそろえて「あの震災がなければAVに出ていなかった」と言います。
彼女たちは「自分が被災したとは思っていない」のですが、それでも震災が彼女たちにもたらしたものは大きかったのでしょう。
もちろん、彼女たちはほかの仕事を選ぶこともできたのかもしれません。ただ、震災によって、いままでは考えもしなかった選択肢があらわれ、彼女たちの背中を押したことは、間違いのない事実です。
内定先を流されて「何かがプツリと切れ」AV女優になった女子大生。
家が半壊し、父親の仕事がなくなり、「好きなことだけしていたらお金は稼げない」と言って、処女にも関わらずAVに出演した少女。
本書ではそんな女性たちの姿を克明に描いています。これまで誰も取り上げてこなかったテーマだけに、貴重なノンフィクションと言えそうです。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。