日本は世界のウナギの7割を消費しており、とりわけニホンウナギは日本食の高級食材として珍重されている。ウナギを食べる土用の丑の日を7月29日に控え、日本の食文化は危機に陥ってしまうのか–。
欧米では「世界中のウナギが日本人に喰い尽くされる」との懸念が広まっているが、それはニホンウナギの代替魚として1969年から日本で養殖されたヨーロッパウナギの“悲劇”が原因だ。ヨーロッパウナギはニホンウナギと同じウナギ目ウナギ科に属するが、すでに2008年から、ニホンウナギのENの1ランク上の近絶滅種(CR)に分類されている。さらに07年の第14回ワシントン条約締結国会議では、国際取引で規制される種を定めた「付属書2【編註:正式名称はローマ数字の「2」】」に掲載され、09年3月から規制の下にある。
以上より、ウナギを輸入するには輸出国が発行する許可書あるいは再輸出証明書が求められ、また活鰻の輸入の場合は経済産業大臣の「確認書」が必要になったのだ。よって近年では、「ビカーラ種」など代替魚も市場に出始めたが、需要が供給を上回る限りは「追いかけっこ」になってしまい、根本的解決にはならない。
そもそもウナギの生態はいまだに謎が多く、マリアナ海溝近くで産卵されることが明らかになったくらいである。こうした事情もあり、近年のウナギの稚魚の価格はまさにウナギ上りで、03年にはキロ当たり16万円だったニホンウナギの稚魚の価格が、13年には247万8000円まで高騰している。
●資源保護に向けた取り組み
すでに庶民の味ではなくなった感がするウナギだが、行政も手をこまねいていたわけではない。例えば宮崎県は95年に「うなぎ稚魚の取り扱いに関する条例」を制定。さらに12年には、10月から12月まで全長25センチ以上の親ウナギの捕獲を罰則付きで禁止した。
水産庁もウナギの養殖を行っている中国、台湾、韓国などと連携し、捕獲、貿易や養殖の実態、保存管理措置・生息環境保全措置、回遊や再生産などの生態について情報交換や協議を開始している。9月には「ウナギの国際的資源保護・管理に係る第7回非公式協議」で、非政府機関によるウナギの資源管理の枠組みをつくり、養鰻生産を制限することで資源を管理する予定だ。
「9月の会合で具体的成果を期待している」と述べる水産庁は、今回ニホンウナギがIUCNのレッドリストに掲載されたことについて、「決定は漁獲量などの客観的なデータをもとにしているが、今後の取り組みなどへの評価が入っていない上、審議が非公開」と懐疑的だ。さらに掲載が「規制につながるものではなく、鰻漁業および養殖業に直接的に影響するものではない」と冷静を装いながらも、「国際的に保護を求める声が高まる」ことに警戒を隠せないでいる。
IUCNのレッドリストへの掲載がワシントン条約議定書の付属書掲載に直接つながるものではなくても、世界的な世論の高まりによって、その可能性が大きくなることもある。
日本人にとって夏にウナギのかば焼きが味わえなくなるのはあまりにも哀しく、関連産業の被る痛手も大きい。水産庁には真剣な取り組みを切実に希望する。
(文=安積明子/ジャーナリスト)