中国では現在、不動産バブルの崩壊が急速に広がっている。当然、不動産を買う人や企業は銀行でローンを組んでいるため、担保価値の下落により返済困難に陥る可能性も高くなる。もちろん、銀行でローンを組めなかった人は非正規のルートによる高金利ローンを受け入れるしかない。いわゆるシャドーバンキングだ。
シャドーバンキングとは預金を貸し出す商業銀行業務とは異なり、資金を預金以外の方法で集める。金利規制が厳しい中国における迂回融資の一種といえる。いわゆる「理財商品」とはその資金調達の手段であり、主な買い手は、企業や個人の富裕層だったといわれている。理財商品で集められた資金は、怪しげな不動産プロジェクトなどに貸し出されていた。不動産バブルが崩壊すれば当然元本も金利も返ってこない。しかし、仮にそうなっても被害を受けるのはあくまで一部の人々であり、ダメージは限定的だといわれていた。
確かに、不良債権が証券化され世界中の金融機関にばらまかれていたサブプライムローン危機(2008年)に比べれば、危険は少ないように思える。しかし、これまで富裕層しか手を出さなかった理財商品が小口化やオンライン取引化により貧困層にも幅広く普及し始めたらどうなるだろうか。
●アリババ「余額宝」が爆発的普及
実際に13年6月、アリババ・グループは「余額宝」というサービスを開始した。1口1元(約17円)から始められるオンライン理財商品の登場であった。一般的にPayPalなどのオンライン決済口座には、決済で使い切れなかった資金が滞留している。アリババはこの資金に目をつけた。少額の資金でも、大量に集めて金額が大きくなれば、金融機関と交渉して法人向けの大口定期預金を設定することができる。法人向け大口定期預金は、中国国内において金利が自由化されている商品だ。アリババは資金繰りに困った銀行と交渉して、市場金利よりもやや高めに金利を設定することもできる。
例えば、6%の金利で大口定期預金を設定し、余額宝の利用者には5%の金利を払ったとしよう。単純計算で1%の利ザヤ(スプレッド)を稼ぐことができる。資金量が100億円なら1億円、1兆円なら100億円の利益をアリババにもたらすことになる。
実際の余額宝の金利は変動制である。金利は開設以来右肩上がりに上昇し、今年1月上旬には6.76%に達した。その後は、徐々に右肩下がりとなり、8月13日時点の金利は4.176%となっている。それでも、中国の大手銀行の金利は当局によって規制されており、普通預金金利は0.385%、1年物定期預金でも3.3%なので、預金者にとっても余額宝のほうがかなり有利な条件だ。余額宝は少額投資に対応し、金利が高く、すべてオンラインで決済できる手軽さから、これまで理財商品を買えなかった若者や低所得者の間で爆発的にこのサービスは普及した。しかも、余額宝のHPによれば、アリババはこの商品が「元本保証」であり、「いつでも引き出し自由」であり、「金利が毎日支払われる」と謳っている。